第22章 今の上官は風柱様です!※
ああああ…、不死川さんったら…、柱が宇髄さんなら何で言ってくれなかったのだろう。
いま私は横を見ないように必死だ。
全く心構えが出来ていなかった。
宇髄さんと会うことなんてもうないと思っていたのに、こんなところで会ってしまうなんて。
いや、会うことがないと思う時点でおかしいか。
だって彼は柱なのだから同じ任務に割り当てられれば必然的に会ってしまうのに。
でも、いまじゃない。
いま、会う予定じゃなかった。
「…ごめんなさい、ちょっと痛いですよ…。」
「う、うぁ…っ、」
私が消毒液を振りかけて止血剤を入れて圧迫止血をしている間、怪我をしている隊士が動かないように体を抑えてくれている宇髄さんだが、私たちの間に会話はない。
彼だって此処で会うつもりなどなかったことだろう。それに私なんかに会いたくなかったかもしれない。
斬り裂かれた傷は幸い骨には達していなかったので止血を確認すると包帯を巻き付けて、処置を終える。
「とりあえず応急処置は終わりました。もう大丈夫ですよ。」
「あ、ありがと、う、ございま、す…。」
何か話さなきゃ…宇髄さんに…。
そうだ、彼は此処に援護に来てくれた柱なのだ。無礼な振る舞いは許されない。
「…音柱様、先程は助けて下さりありがとうございました。」
勇気を振り絞り、隣を見ると頭を下げる。
すると同じように助けた隊士の人も頭を下げて彼に御礼を伝えている。
二人きりじゃなくて良かった。
もっと何を話したらいいかわからないところだった。
「…構わねェよ。で?ほの花は何で此処にいるんだよ。」
頭を下げたままでどんな表情をしているかわからなかったが、二人でもないのに直接的に質問をしてきた声色に怒りの感情は感じない。
声が震えないように心の中で言葉を整理するとゆっくりと言葉を発する。
「…風柱様の命により怪我人多数ですぐに救護者が必要とのことで馳せ参じました。」
「…不死川か。」
端的に伝えたつもりなのに何故か声色に負の感情が入った気がして背中に嫌な汗が伝った。
理由は分からないが、怪我人の手当てをするのは本当なのだから早くそこに向かわなければいけない。
それなのに蛇に睨まれたかのように一歩も動けずに浅い呼吸を繰り返した。