第22章 今の上官は風柱様です!※
「…ほの花、男っていうのはね。愛した女性を幸せにしたいと心から願うものなんだ。今こうしてる間もきっと天元はほの花の幸せを願ってる。君の幸せは天元の隣にいることだと思ってたけど…違ったかな?」
──違わないです。
それなのに泣き噦るだけで私は頷くことも、肯定の言葉も発することができずに、ただただ時間だけが過ぎていく。
長居をし過ぎていることに気付き、慌てて薬の調合を始めるが、心配そうに見つめてくれる産屋敷様には申し訳なさからちっとも目を合わせることができなかった。
もちろん戻りたいし、彼の隣にいることが本当に幸せだけど…、その幸せが宇髄さんにとっての心からの幸せなのかと言われたら否定の言葉しか出てこない。
綺麗で清廉潔白な女性でなければ、彼の隣にいるのは恥ずかしい。
鬼と情交を繰り広げたわけではないが、体を晒し、舐められ、触られた。
愛する男性以外とそういう行為直前までしてしまったことが自分自身が一番気持ち悪くて、許せなかったのだ。
そして、それのせいで彼が傷ついたのは明白で、傷つけておきながら幸せになりたいだなんて烏滸がましいと思う。
「…産屋敷様のお言葉が胸に刺さります。…帰りたいと思う一方で、宇髄さんの幸せに私は必要ないと思う気持ちのが強くて…二の足を踏んでしまいます。」
「それは何故?」
「…え?」
「天元の幸せにほの花が必要ないわけないと思うけど?君の考え過ぎだ。でも…」
少しだけ言葉を濁すと、庭に目を移してゆっくりと微笑む産屋敷様は一つ息を吐く。
「言葉だけだと分からないものだよね。君にいま必要なのは天元に抱きしめてもらうことだと思うよ。早く…勇気が持てるといいね。愛する人の温もりは何よりも尊いものだよ。」
彼はいつもその言葉で私を救ってくれた。でも、今回ばかりはその言葉を実現することは難しいかもしれない。
宇髄さんの温もりを欲しているのは自分とて分かってる。
でも、それを望むのは継子に戻ることより難しいことなのだ。
私の体は汚れているから。