第22章 今の上官は風柱様です!※
「はい、ほの花ちゃん。お待たせ〜。」
「アオイちゃん、ありがとう…!お手数かけました。」
里から出て来て宇髄さんの屋敷にお世話になった初日も食事を摂れない私に、彼が雛鶴さんに頼んでくれてお粥にしてくれた。
私はいつも人に助けてもらって生きている。
この優しさに報いなければいけない。
もらったお茶碗には湯気を立てている真っ白なお粥。
それを一口食べると程よい塩気が口の中に広がる。味は美味しいと思う。それでも口腔内に転がすだけでなかなか嚥下できずにゆっくりと食べ進めることしかできない。
(食べないと…折角作ってくれたんだ。)
そういえばあの時も、雛鶴さんがお粥にしてくれたけど、結局それすら食べきれなくて宇髄さんが食べてくれたんだった。
でも、今は代わりに食べてくれる人なんてここにはいない。
一口ずつゆっくりと…。たった御茶碗一杯分のお粥を平らげるのに一時間もかかってしまい、時間を見ると産屋敷様の調合の時間まであと少しというところ。
結局、おかずにはほとんど手をつけられずに私はアオイちゃんに深々と謝ると、薬箱を持って蝶屋敷を飛び出した。
(…ちょっと走らないと間に合わないや。)
薬箱を抱え直すと産屋敷邸への道のりを全速力で走っていくが、食事直後ということもあり、数分走ったところで気持ち悪くなって来て急に足を止める。
「…ぅ…、やばい…吐く…。」
幸いにも町は抜けていて、此処は産屋敷邸に行くまでに通らなければいけない森の中。
込み上げてくる吐き気を我慢できずに私は茂みの中に入り、そこで全て吐き戻してしまった。
「げほ、ッ、う、っ…ごほ…ッ…」
吐き気を催したのも吐いたのもこの場所にきた日以来。あの時、背中を撫でてくれる優しい人に出会えたことで私は初めて愛を知った。
「…っ、ひっく、うずいさ…っ…。」
でも、今は撫でてくれる手はどこにもない。
此処にあるのは生い茂る木々のみ。
そこに隠れて気分が良くなるまで全て吐き戻してしまえば、幾分楽になった。
急いで行かないといけないのにまた込み上げて来てしまって産屋敷様の屋敷を汚すのだけは避けたいので遅刻を覚悟の上、歩いて向かった。
あんなに泣いたのに宇髄さんのことを考えるだけで涙が溢れてくる。
一体いつまで続くのだろうか。
それを考えるだけで途方もない未来に絶望するしかない。
