第22章 今の上官は風柱様です!※
「食べられませんか?」
「え、あ…えと、ご、ごめんなさい。食べます…!」
「無理しないで大丈夫です。こんなことだろうと思ったので、お粥も準備してあります。アオイ、持って来てくれるかしら。」
しのぶさんがアオイちゃんにそう言うと「はい!」と言って部屋を出て行ってくれたが、申し訳なくて唇を噛み締める。
美味しく感じないなんて失礼な話だ。
味がわからないと言っても本当に味覚がないと言うわけではなくて、食事自体が楽しくないと言うか義務感に感じられてしまい、美味しく感じないと言うこと。
折角作ってくれたのに美味しそうに食べられない自分が酷く情けなくて恥ずかしい。
「きっと精神的なものだとは思いますが、無理すると吐いてしまいますよ。少しずつ食べられるものを食べれば大丈夫。暫くはお粥を食べて、おかずは食べられそうなら食べてください。」
「…ごめんなさい。」
「謝らなくても大丈夫ですよ。体調は悪くないんですよね?それなら精神的に落ち着いたら良くなると思いますので死なないようにお粥で生命を維持してください。」
しのぶさんの言い方が淡々としていることで、少しは気が紛れたように思うが、申し訳なさは変わらない。
死なないように生命を維持するためだけの食事としのぶさん自身も言っているように、今のわたしに食事を楽しむだなんて所業こそが無理なのだ。
頭の中は寝ても覚めても宇髄さんのことばかり。
3大欲求を以てしてもそれに勝る宇髄さん欲は止まることを知らず、食事もままならない自分が情けなくて仕方ない。
精神的にこんなに弱かった?
正直、里が全滅した時は致し方ないと思っていた。
だって家族を含め知り合いが全員死んだのだ。故郷が無くなって、残ったのは己の肉体と三人の護衛達だけ。
絶望するに値する出来事だと思っている。
それなのに、今回はそれに匹敵するとでも言うかのようにたった一人の人を失っただけなのに、彼に対する依存度が物凄かったのだと言わざるを得ない。
彼にどれだけ頼って、甘えていたか。
私はこんなに弱かったのか?
そう考えると恥ずかしくてたまらないし、弱い自分を認めるのに勇気がいった。
でも、いくら考えても己の弱さから逃げるわけにもいかず、私は目の前に広がる食事をただ眺めることしかできなかった。