第22章 今の上官は風柱様です!※
本日のお献立
美味しそうな魚の煮付け
美味しそうなだし巻き卵
美味しそうな具沢山のお味噌汁
美味しそうな炊き立てのご飯
美味しそうなお新香
美味しそうな匂いだと感じるし、いつもなら"わーい!!"と真っ先に食卓に向かう私だが、そんな私はどこかに消え失せた。
朝ごはんはのらりくらりと遠慮したが、昼はそうもいかないと思っていたのはつい先程のこと。
産屋敷様のところに薬の調合に行く前に腹ごしらえを…しなくてもよかったんだが、玄関前でコソコソと出かけようとするところをしのぶさんに見つかってしまった。
腕を引っ張られていく先は居間で、そこにはカナヲちゃん達が食事を摂ってる最中でトンと背中を押されると部屋の中に足を踏み入れる。
「さぁ、ほの花さん。少しでも食べてから出かけて下さいね。ちゃんと食べないと鬼に殺される前に死にますよ。」
「…ひょえ…。」
何故だ、しのぶさんが言うとめちゃくちゃ怖いぞ。
本当に死ぬんじゃないかと思わせる声色にニコニコしているのに目の奥が笑っていない視線に慄き、渋々進められた席に座る。
もちろん食べたいとは思うし、美味しそうだなぁ…と思うけど、脳がちゃんと感じていない。
目の前のお箸を持つとお味噌汁の入ったお椀を持ち、口を付ける。
味噌の香りと優しい出汁が体中に沁み渡るが、何を食べたいのか分からない。
魚の煮付けもだし巻き卵もご飯も美味しそうなんだけど、見ていても何故か小首を傾げてしまう。
──私、どうやってご飯食べてたっけ…?
食事を目の前にしてこんなに困ることは本当にあの時以来。三食食べることを先人達は何故決めてしまったのかと本当に呪っていた。
しかし、私が食べるところをじーっと見つめているしのぶさん達の手前、食べないわけにもいかず、仕方なく魚の煮付けに手をつけるが、きっと美味しいんだろうけど味がよくわからない。
食べ物ってこんな味がないものだっただろうか。
白米を食べても、だし巻き卵を食べても、
何を食べても味がよく分からない。
匂いはちゃんと感じる。
ちゃんと味が分からないと言っても塩味も甘みも感じるのだが義務感に駆られて食べるそれが美味しいのかどうか分からないのだ。
加えて食べ進めているとすぐに満腹感を感じて箸を止めることになってしまった。