第22章 今の上官は風柱様です!※
──時刻は丑三つ時
私は一人、蝶屋敷を抜け出すとあるところに向かっていた。
「…置いてくるだけ。ちょっと縁側に置いてすぐ帰る。」
そう、ほぼ一日中眺めていたあの避けた薬達を持ち、宇髄さんの屋敷に向かっていた。
散々悩んで悩んで悩みまくった結果、こんな真夜中であれば流石に宇髄さんも起きてないだろうと思い、向かっている。
最悪、起きてたとしても屋敷の中にいる時間をほんの数秒にすれば見つからない。
宇髄さんはちょっとした物音や気配で屋敷の中に誰か入ってきたらすぐに気づいてしまうから。
機会は一回きり。
悪いことをしに行くわけでもないのに何故かドキドキと煩い心臓を抱えて、何とか走る。
いや、悪いことなのか?
破門になったようなものなのにノコノコと元師匠の屋敷を夜な夜な訪ねるなど確かに褒められたものではない。
蝶屋敷から宇髄さんの屋敷までは数十分の距離。
道中、何度となく頭の中で作戦を反芻させたが、抜かりはない。
彼の大きな屋敷の屋根が見えてきたところで私は隣の家の屋根に飛び移った。
一瞬で出ないとバレてしまう。
私は息をフゥっと吐くと、勢いをつけて宇髄さんの家の屋根に静かに降り立ち、そのまま庭に降りると縁側に薬を置いて再び屋根に飛び移った。
時間にして数秒。
しかし、少しの物音でも気づいてしまう宇髄さん。
長居は無用だ。私は再び隣の家の屋根に飛び移ると最高速度で蝶屋敷に向かった。
「ほの花!」
一瞬、そう聞こえた気がしたけど、振り返った先には誰もいなかった。
(…好き過ぎて幻聴まで聴こえてきたんだ。末期だなぁ、わたし。)
再び走り出すともう振り返ることはしなかった。継子としても恋人としてももう会うことは許されないかもしれない。
でも、いつか薬師としてなら役に立てる時がくるかなぁとぼんやりと考える。
宇髄さんは薬に気づいてくれるだろうか。怪しい薬だって思って捨てられちゃうかなとも思ったけど…宇髄さんなら気づいてくれると勝手に解釈して置いてきた。
それに彼が大変な時にそばに居られなかったことが少しだけ悔しかった。
二度と会えなくても薬だけでも頼りにしてもらえる存在で居たい。
だから持っていった。
それしか今の私にはできないから。