第3章 立ち振る舞いにご注意を
「そうか。んじゃあ、とりあえず明日の鍛錬は今日の10倍な。」
「じゅっ?!?!?!」
大きな瞳をこれでもかと見開いて絶望感に苛まれている彼女はそんな状況でも美しい。伝えた内容はかなり本気だが、涙を溜めて懇願されれば簡単に絆されてしまう気もする。だが、お前のせいで一喜一憂させられたんだ。それくらい許してくれよ。
「う…、頑張ります…。」
見るからに落ち込んでいる彼女が可哀想に思えてしまう俺は随分と優しいと思う。仕方なく、別の提案を述べるべく空を見上げた。
すっかり陽は落ちて、あの日一緒に見た時のような満天の星が見下ろしていた。
「まぁ、でも、俺を祝おうっつー気持ちはあったんだろ?」
「え、そ、それは勿論!選択を間違えてしまいましたが宇髄さんのことをお祝いしたい気持ちでいっぱいです!!」
「じゃ、まずは肩だろー。その後、腰だろー?あ、ついでに背中もやってもらうか。」
「……ん?え?肩…?」
下から不思議そうに見上げるその瞳に思わず吸い込まれるような気分になったが、慌てて頭を振った。
「…宇髄さん?」
「っ、あー、揉め。今日は疲れてんだ。だから全身按摩してくれって言ってんの。」
「あ、は、はい!!一生懸命に揉ませて頂きます!」
疲れなんて本当は大してない。
仕事といっても今日は警護に行っただけだし、戦闘になったわけじゃない。
だけど、特別感が欲しくてたまらなかった。
不死川と茶をしばいたっつーなら、それよりもっと特別感のあることをして欲しかった。
ただの継子だといくら言い聞かせても簡単に心の蓋を外してくるこの女はまるで羽根でも生えているかのように自由で天真爛漫。
心乱されているのは自分だけだと心得ているが、慣れるしかないのだ。
顔を見慣れてしまえばこんな感情に振り回されることもなくなるだろうとまだ見ぬその先のことに希望を抱くしかなかった。