第22章 今の上官は風柱様です!※
「宇髄さん!おはようございますーー!」
目が覚めたらほの花がニコニコと俺の目の前にいた。いつも通りの朝、いつも通りのほの花に目を見開いて、見つめる。
「…ほの花?!お前…戻って来たのか…?」
「戻ってくる?何を言ってるの?」
意味が分からないと言った顔で小首を傾げるほの花を思わず抱きしめるとすんなりと自分の腕に収まってくれる。
「ほの花、此処にいてくれ…、頼むから。」
「えー?変な宇髄さん。私はずっと此処にいるのに。宇髄さんこそずーっと私のそばにいてくださいね?」
そんなの当たり前だ。こんな夢みたいなことがあったのならばもう二度と離すものか。
離したりしない。
しかし、ギュゥゥッと痛いほど抱きしめていると言うのにいつもなら「痛いよー」と反論してくるほの花はいない。
襖から入り込んできた陽の光は橙色に染まっていて、部屋の中を赤く染めていた。
(…夢か。)
頭痛は治まっているが、今度は体が熱い。どうやら発熱でもしたか。
一体いつぶりだ?記憶のある中ではない。
ガキの時はあったかもしれないが、全く覚えてないので、此処まで体の怠さを感じたことは初めてかもしれない。
それにしても…
「死ぬほど…幸せな夢だったな…。」
熱で魘されて悪夢は見ることはあってもこんな幸せな夢を見るなんてことがあるのか…。いや、二度と訪れない場面を掻い摘んだ夢だとすれば悪夢だと言われれば悪夢か…。
怠い体を起こすと枕元には元嫁達の誰かが置いてくれたのだろうか。お茶と薬が置いてあった。
解熱剤を飲んだ方が良いのだろうが、腹に何か入れねぇと飲むなと煩い女が……
もう、いねぇけど。
正直、頑丈な自分であれば使用方法を多少変えようが大したことはないだろう。それなのにほの花の言葉が甦ってきて唇を噛み締める。
夢の中のように「此処にいてくれ」と何故言えない。
何故此処にいない。
俺がここに居づらくなるようなことを言ったからだろうが。
ほの花が作った薬の封を開けるとそれを口に放り込み嚥下した。
「…やっぱ…クソ苦ェな。」
その苦みが暫く口の中からなくなることはないが、それすらも愛おしいと感じてしまう。
出来ることならばずっと残っていればいいと思う俺はもう末期だ。