第22章 今の上官は風柱様です!※
不死川さんは私が泣き止むまでそばに居てくれると徐に「おはぎ食うかァ?」と聞いてくれた。
あまりに突然のことで目を見開いて驚いてしまったが、冷やかすわけでも憐れむわけでもなく普通に接してくれたことにかなり救われた。
私はまだ震える声で「はい」と返事だけすると片手に収まっていた包みを見せてくれる。
「ちょうどよォ、おはぎ買ってきたんだァ。お前も食えや。」
匂いで分かってはいたけど、彼の言葉に納得するとコクンと頷いてみた。
しかし、こんなところを誰かに見られたら宇髄さんに嫌われてしまったから、すぐ違う男に乗り換えたなんて思われるだろうか?
自分だけならまだしも、宇髄さんや不死川さんにまで迷惑がかかる噂話は絶対に困る。
私は不死川さんの家を知っていたこともあり、前を歩く彼のうしろを極力距離をあけて歩く。
その不自然なほどに空いた距離感は落ち着かないが、一人じゃないと言う事実が先ほどよりは遥かに気持ちが楽だった。
「…何があったか知らねェけどよォ?昨日の礼だからたらふく食え。」
「あはは…昨日の…ですね。ありがとう、ございます…。」
「…喧嘩でもしたかァ?」
前を向いたままそう聞いてきた彼に返す言葉が見つからない。
喧嘩したわけではない。
喧嘩というのは仲直りが前提になっている言い合いのことで、私のは違う。
私は宇髄さんにフラれたのだ。
「…宇髄さんに愛想を尽かされてしまったようで…。」
「はぁ?あの男がお前に愛想尽かすわけねぇだろ?馬鹿馬鹿しい。」
「本人に直接言われたんです…!!
そう。
私は本人に言われた。それが本心だろうがなかろうが、現在の関係性は何もないのだから。
「…俺のせい、だよな。ごめん。謝っても謝りきれねェ。」
「…不死川さんのせいではありません…!」
「お前が望むなら宇髄との仲を取り持つ手伝いをすっから言ってくれェ。」
仲を取り持つ?
その申し出は喉から手が出るほど有難い言葉なのに、望んでるのは自分だけと言うことが悲しくてたまらない。
「…っ、私なんか継子にするんじゃなかった…と後悔していらっしゃったようなので…もう、無理かも、です。」
私のことで何度も何度も何度も何度も我慢してくれていた彼に汚い体の女で我慢しろなんて口が裂けても言えない。