第1章 はじまりは突然に
「ほの花様。大丈夫…ですか?何か食べなければ産屋敷様に会う前に病気になってしまいますよ。」
心配そうに声をかけてきたのは正宗。
隆元も大進も彼と同じようにこちらを心配そうに見ている。
「…そう、だね。うん。ごめんなさい。」
目の前に並ぶ食事を見て美味しそうだと感じないのはもう病気だろう。里を出て三日。
碌に食べ物が喉を通らない。
一日三食というのは一体誰が決めたのだろうか。今の私にとってはそれがとても億劫だ。産屋敷様の住んでいる町に着いたところで手頃な定食屋に入ったのだが、卓に並ぶ料理を見てこんなに眉間に皺を寄せたことはない。
自慢ではないが、食事は作るのも食べるのも大好きだからいつもなら食べ物を前にすると自然と笑顔になってしまうというのに。
此処三日はこの調子だ。
どこの町に行っても一日三食何かしら口にしなければならないこの食事という名の修行。
三人に促されて、漸く箸を持って一口食べてみるが胃の中に入っていくと同時に込み上げるものを必死に食い止めることで精一杯。
次の一口など進めるわけがない。
仕方なく、出されたお茶をチビチビと飲みながらため息を吐く。
「…やはり無理そうですか?」
「ご、ごめんなさい…!ちょっと外に出てる…!」
お店の人にも迷惑がかかると思い、彼らに断りを入れて一旦外に出ると食べ物の匂いから解放されて少しだけ気分が良くなった。
これではまるで悪阻ではないか。
本当はあの三人とてツラいはずなのだ。それなのに毅然とした態度の彼らはとても強い。
自分がどれほど甘ったれなのかよく分かった。
甘やかされて、自由に育ったから我慢が足りないのだ。
店先に座り込み気持ち悪さと格闘していると大きな影が目の前に止まったため、ゆっくりと見上げると今まで出会った中で一番大きな男性が私を見下ろしていた。
それが私と彼が初めて出会った日だった。