第22章 今の上官は風柱様です!※
蝶屋敷に行ったことで振り出しに戻ってしまった私は行く当てもなくフラフラと街に来ていた。
兎に角しばらくは宿を取るしかないけど、いずれにしろ一度は宇髄さんの家に帰らないと薬箱がない。
産屋敷様の調合もあるし、彼の家で仕事をさせてもらっていたのだから殆どの医療器具があそこにまるっと置いてある。
薬師としての任務もできなければ流石に困る。
頭の中で考えることは正論ばかり。
自分の気持ちは全くついていってないのに、私は無理矢理それに向き合うしかない。
つらい時、苦しい時…私はどうしていた?
それを考えて浮かぶのは宇髄さんの顔。
そうだ、私は宇髄さんにいつもいつも甘えていた。
つらくても苦しくても彼に抱きしめてもらったら心が穏やかになった。
彼と話すだけで心が安らいだ。
でも、今は…?
庭で情交を始めようとする彼に懐かしさすら感じる。昨日のことなのにあまりに違う状況に未だに夢現だ。
ぼんやりと下を向いて歩いていると、後ろからとんとんと肩を叩かれた。
あまりに周りを見ていなくて後ろの気配すら感じなかったが、特に驚くこともできずに後ろを振り向くと、そこにいた人物に目を見開く。
「…不死川さん…。」
そこにいたのは神妙な面持ちをした風柱・不死川さん。
顔を見た瞬間、胸が苦しくなって唇を噛み締めた。必死に涙を堪えたはずなのに昨日の当事者の一人でもある彼の顔を見てしまって、私の涙腺は崩壊した。
「は?ほの花?!お、おい…どうしたァ?何で泣いてんだよ。宇髄はどうしたァ?」
"宇髄"さんの名前を聞けばもっと涙が溢れてしまい、道端で嗚咽をしながら号泣し出してしまった私に不死川さんはさぞかし困ったことだろう。
それでも見捨てることなく、その場に留まり続けてくれた彼は私が泣き止むまで隣にいてくれた。
決して私に触れることなく、ただそこに居るだけの不死川さんは宇髄さんに配慮してのことだろう。
でもね、そんなことしても仕方ないんです。
彼はもう
私のことなんてどうでもいいと思ってるから。