第22章 今の上官は風柱様です!※
ほの花の声がすげぇ好きだ。
何気なくしている普通の会話も
薬の調合をしながら鼻歌を歌うのも
情交中の厭らしい嬌声も
全て俺の
俺だけの特別なものだと思っていた。
でも、わからねぇ。
今は自分の心がついていかなくて不協和音に感じる。
もう今回の鬼の話はしたくない。
あの鬼に何をされたかどうかすらも聞きたくない。
そんなことはなかったことにすらしたい。
それなのに蒸し返して俺に向き合わせようとしてくるほの花に苛つきが止まらない。
お前が悪いだなんて思ってない。
ただ自分の中で不完全燃焼なだけ。
誰も悪くない。鬼殺隊なんだから任務中に不測の事態が起こるのは致し方ないことなのだ。
それなのに割り切れない気持ちが消えないのは自分があまりにほの花を愛していて、継子としてなんて既に全く見ていなかったことに気付かされたから。
婚約者として死ぬほど愛してる。永遠にそばにいて共に生涯を全うしたいと思う。
だが、ひとたび継子として扱わないといけない場面が来た時に俺の覚悟が出来ない域に達していた。
今回の件も然り、鬼殺隊として当然のことをしたまでのほの花と不死川。だが、俺はどうだ。万が一の時、職務を放り出してほの花の下に向かうと思う。それはもう柱としてはあり得ないことだ。
鬼が目の前にいたとして
部下も引き連れていたとして
俺しか戦力がいないとなったとして
果たしてその時にほの花が危険な目に遭っていたら?俺は職務を放り出す自信しかない。
「…何でこちらを見ないんですか。」
「ほの花、取り敢えず服着替えて帰ろうぜ。その話は後だ。」
「怒っているなら怒ってください。そんな能面みたいな笑顔を貼り付けた宇髄さんは"らしく"ありません。」
「…ほの花、な?帰ろうぜ。」
「宇髄さん、ちゃんと私の目を見てください。」
見たら駄目なんだよ。
お前の顔見たら全部漏れ出ちまう。
俺の心に巣食うドス黒い感情がお前を傷つけちまうから。
それなのに俺の顔を掴み、真っ直ぐと目線を合わせてきたほの花に俺は唇を噛み締めた。