第22章 今の上官は風柱様です!※
咄嗟に一つ誤魔化してしまった。
あの時、目潰しした後、私だって首を狙った。でも、鬼門封じの効果が限りなく弱くて斬りきれなかったんだ。
首を斬りつけられて、出血した時、大した傷でもなかったので痛みもほとんどなかった私と違って、苦しみ出したのは鬼の方で。
攻撃した指は完全に吹っ飛び、血飛沫を上げていた。
その瞬間、珠世さんが言った一言が頭をよぎったんだ。
"体に備わっている治癒能力が鬼にとっては毒になる"
私の血を浴びたことで鬼は血鬼術を解除せざるを得ないほど出血し、私は助かった…。
俄かには信じがたかった私がそれを信じざるを得なかった出来事。
「…無事で良かった。それだけだ。お前、自分で傷薬持ってんだろ?血は止まってるが、塗ってやるから貸せ。」
「あ、は、はい!」
懐から取り出した巾着からそれを出すと宇髄さんの温かい指が傷口に触れたが、やはり痛みはなかった。
それよりも此処に戻ってこれたことが嬉しくて顔を綻ばせてしまった。
「…これだけで済んで良かったな。」
「いや、ちょっと流石に今日は死んだかと思いました…。」
「縁起でもねぇこというなっつーの。」
「取り込み中のところ悪ィが、ほの花の耳飾りを片方預かってる。あと、これはどうする?」
耳飾りを落としていたことに気付かなかったが、不死川さんの手に握られていたのは血まみれになって無残にも壊れてしまっている花飾りが目に入った。
「あー、そんなもん…」
「貰います…!大切なものだから…!取っておきます。」
きっと宇髄さんは捨てろって言うつもりだったと思う。でも、あの時これがなかったら死んでた。結果的に助かったのは自分の血のおかげとは言え、突破口を開けたのは間違いなくこの花飾りのおかげだから。
あの時、これがなければ…私は間違いなく死んでた。
「…ほらよ。」
そう言って渡されたそれはもう髪に飾ることは難しそうだが、大切に懐に仕舞い込むと宇髄さんはため息を吐いて呆れたようにこちらを見ている。
宇髄さんからしたら贈り物の一つかもしれないが、初めて好きな男性からもらった贈り物。
私にとって、これに代わるものはない。
血まみれでも
壊れていても
大切なそれ。
捨てろって言われても死ぬまで持ってる。
それほど大切なものなんだ。