第22章 今の上官は風柱様です!※
静まり返る町には私以外の足音は聞こえない。
鬼が出始めて数日経っているのならばこの時間に出歩くなんてことは死活問題だからだろう。
近くに不死川さんの気配を感じるが、鬼の気配はまだ感じない。
(…もう少し歩いてみるか。)
そう広くない町のようだが、着物でゆっくり歩くとなるとなかなか面倒臭い。宇髄さんと町を歩いたあの時とは気分も状況も違いすぎるし、鬼狩りに来ているのだからやはりいつものあの隊服は布面積は少ないがかなり活動しやすい。
なかなか現れない鬼にヤキモキしかけた時、突然空間が歪んだような気がした。
それが血気術だと気付くまで数秒。
鈴を出すのにコンマ数秒。
しかし、その鈴は音が鳴ったのは恐らく、地面にそれが落ちた時のもの。今頃、不死川さんがそこに到着しているだろう。
私が鬼の作り出す異空間に連れてこられたのだと気付いたのはさらにその数秒後のこと。
(……なるほど。なかなかの速さだわ…。)
「今夜の鬼狩りはなかなかの上玉じゃねぇか。俺は運が良い…。ヒッヒッ…。」
目がつり上がり、舌舐めずりをして私を見下ろすその姿はまさに飢えた獣。
此処がこの鬼の作り出す異空間だというのだけは分かるが、情報が少なすぎて攻撃を仕掛けようにも躊躇してしまう。
(…だとしてもこのまま何もしないという選択肢もない)
私は体勢を整え直すと裾を捲り上げて舞扇を取り出して、鬼に向けて構えた。
「…いいねぇ、いいねぇ。綺麗な白い足を舐め回してやりてぇなぁ…。」
「女を性欲処理の道具かなんかだと勘違いしてんの?舐めるのは苦汁でも舐めときなさい。」
「あんた、本当に綺麗な顔してんなぁ?顔も舐め回してぇなぁ。」
「…ごめん、気持ち悪いから首斬らせてもらうわ。」
あまりに発する会話の内容が気持ち悪くて、吐き気を催すほど。
そんなこと宇髄さんにしかされたくない。
舞扇を構えると、鬼門封じを発動して、奴の首に斬りかかった。
──はずなのに、背中に冷たい感触を感じた。
それが地面だと気付くまで時間がかかってしまった。
目の前にいた筈の鬼が、自分の上に覆い被さるように乗っていたから。
(…嘘でしょ。)
実力差を計れないほど弱くはないと自負しているのに、目の前の鬼が自分より速く動くことに驚きを隠せずに狼狽えた。