第21章 桜舞う、君との約束※
此処までどうやって帰ってきたのか既に思い出せないほど憔悴していたんだと思う。
部屋に帰って宇髄さんがいないと分かると、部屋に一人でいることが嫌で、無意識に縁側に座り込み彼が帰ってくるのを待っていた。
今か今かと彼の気配を感じようと神経を研ぎ澄ませてていると聞いたことのある足音が庭に降り立ったのでそちらをみれば会いたかった人物。
込み上げてくるものを何とか抑えると精一杯の笑顔の練習をして、声をかけた。
「…宇髄さん、おかえりなさい!」
その瞬間、驚いたような顔をした宇髄さんだけど、すぐに怪我の確認をして、そばに来てくれた。
頬を撫でられると指から伝わる優しい温かさに折角堰き止めていた涙がこぼれ落ちそうで思わず彼に抱き着いた。
彼の温もりを感じてしまうと、そこから離れたくなくて涙が出ないように必死に呼吸を整えていた。
でも、宇髄さんは私のちょっとした変化にもすぐに気付いてしまうような目敏い人。様子がおかしいと思った私に「何かあったか?」なんて聞いてくるものだから喉に溜まった唾液を涙と共に嚥下した。
「俺には言えねぇ?」なんて言葉まで言わせてしまって、いよいよ涙がこぼれ落ちた。
言いたい。
言いたいよ。
あなただけでも言ってしまいたい。
でも、約束しちゃったの。
私はとても狡い。
言えないくせにあなたに甘えて、
言えないって言って
またあなたに許してもらおうとしてる。
「…でも、裏切ってるとか、そういうんじゃないから…、私のこと捨てないで…っ。」
お願い、お願いだから。
それでも私のそばにいて。
あなたのそばにいられないなんて、それこそ生きていけないよ。
結局、涙が我慢できなくて泣き噦る私に宇髄さんは大きく息を吐くと思いっきり抱きしめてくれた。
「…捨てるなんて選択肢、最初からねぇよ。」
その言葉を待っていたなんて、本当に私は愚かで狡い女だ。
彼の温もりも離せなくて、でも、珠世さんも無碍にできない。
隠し事してるくせに捨てないでなんて言って。
それでも、
どんなに狡くても、
泥臭くても、
あなたに縋り付きたい。
あなたに愛されたい。