第21章 桜舞う、君との約束※
「…宇髄さん、おかえりなさい!」
任務が終わって屋敷に帰ってくると、真っ直ぐほの花の部屋に向かうのはいつものことなのだが、今日は向かう前に外にいて出迎えてくれた。
ほぼ同時刻に任務に赴いていたので、彼女が鬼狩りに行っていたのは知っているが、こんな風に縁側に座って待っていたことは初めてのこと。
「おー、どうした?ほの花もお疲れさん。怪我してねぇ?」
「うん。してない!ちょっと…宇髄さんの顔が早く見たくて待ってたの。」
その発言自体は物凄く嬉しい内容なのだが、どこか笑顔が儚くて、哀愁が漂ってきたのは間違いではないと思う。
俺はほの花のことであればちょっとした表情の変化すら見逃さない自信があるからだ。
彼女が座っている縁側に近寄って頬に触れると腰に抱きついてきたほの花を受け止める。
「どうしたよ。何かあったか?」
「…だからー、宇髄さんに会いたかったの。」
「何かあったから俺に甘えたくなったんだろ?お前のことがわからないわけねぇだろ。」
図星だったのかほの花はそれ以上何も話さなくなった。その代わり腰に抱きつく力が強くなり、俺の腹部に顔を埋めているので、ただそれを受け止めてやった。
(…泣いてる?)
艶やかな髪を撫でれば甘えるように擦り寄る彼女が可愛いが、状況はあまり良いとは言えないだろう。
「…俺には言えねぇ?」
「…宇髄さんって何で私のことそんなに分かるの?すごいね。」
「話逸らすなって。ほの花。」
「……話したい、けど…話せないんだもん…。約束しちゃったから。」
消え入りそうな声で紡いだ言葉がきっとほの花を苦しめている全て。
話したいけど話せない。でも、一人では受け止められなくて俺に甘えたくなったんだろう。
話して欲しいと言うのが本音だが、こんな縋り付いて来るほどツラいことがあった時に第一選択で俺に甘えてくれたことは嬉しい。
「…でも、裏切ってるとか、そういうんじゃないから…、私のこと捨てないで…っ。」
そう言うほの花は見ているのがつらくなるほど震えて心臓が煩く拍動していた。