第21章 桜舞う、君との約束※
とうとう泣き出してしまったほの花を見れば不思議と落ち着いていく自分がいた。
さっきのほの花の言葉。
"捨てないで"と言わせるような何かはきっと自分にも関係すること。
鬼殺隊のことか。
鬼のことか。
陰陽師のことか。
それは分からない。
でも、言えない理由は"約束"したから。
俺に言いたくないわけではない。
それなら…選択肢はひとつしかない。
「…今は、言えねぇってことでいいか。」
ピクンと反応したほの花は顔を上げることはなかったが、頷いてくれる。
「…ほの花が裏切るとか思うわけねぇよ。お前はそんなことできるような奴じゃねぇ。」
そう、ほの花はそれほどまでに義理堅く、人に気を遣う人間なのだから。
此処まで頑なに言えないと言い、でも裏切っていないとも言うのであれば、恐らく鬼殺隊に関わること。それもお館様にまで関係することだろう。
「でも、どんなことを隠していたってお前を捨てるなんてことはありえねぇ。俺を信用してないから言えないとかじゃなく、誰かは知らねぇけどそいつと約束したから言えねぇんだな?」
「…うん。」
「…だったら言えるようになるまで待つ。」
俺の言葉を聞いて、驚いたようにゆっくりと顔を離して見上げるその瞳は涙で濡れている。
大体、隠し事があるということすら隠せてねぇコイツが裏切り行為ができるわけがない。
隠してることがツラくて泣いちまうような奴を疑う奴がいれば見てみたいくらいだ。
溜まった涙を親指で拭い取ってやると、ゆっくりと口づけをする。
「…宇髄さん、つらいです…っ。」
「…そうだな。」
「もう、っ、今日は何も考えたくないんです…っ。」
俺には言いたいと思ってくれているのが伝わってきて勝手に愛おしさが込み上げる。甘えるように縋り付いてくるほの花を強く抱きしめると腕の中で彼女が驚きの一言を放った。
「…宇髄さ、…何も考えたくない、から…抱いて…。」
「は、?いや、でも…。」
「お願い…っ、忘れたいから…、何も考えられなくなるくらい抱いて…っ…!」
今までそんなこと言われたこともなかった俺は激しく狼狽えたが、震えて縋り付くほの花を抱き上げると自分の部屋に連れ込んだ。