第21章 桜舞う、君との約束※
珠世さんの話はやはり聞いたこともない寝耳に水の話。
私が産まれたことがそんな大層なことだったなんて思いもしなかった。
しかし、思い当たる節もあった。
私は定期検診という名目で定期的に母から採血をされていたから。一年のうち何回も採血するのは家族の中で私だけ。
最初のうちは悪い病気なのかと思っていたが、母は「いつか好きな人に嫁ぐときのために女性としての機能があるか定期的に確認する必要がある」と言われて、いつしか気にもしなくなっていた。
「…血を渡せばいいんですか?」
「ええ。それともう一つ貴女に聞きたいことがあります。灯里は貴女に薬のことを何か託していませんか?」
「……分かりません。薬のことならばいろいろと教えられてきましたが、私はところどころ記憶がないんです。珠世さんの話も…知らなかったくらいですから。」
口に出してみればとても情けなく感じた。
陰陽師の家に生まれたのに自分だけ蚊帳の外。
家族なのに秘密にされていたことが情けなくて悲しかった。
「…恐らく、忘れ薬を飲まされていたのでしょう。幼子は秘密にすることが苦手ですから。そして、貴女のことは無惨のことが終わればきっと陰陽師のことなど忘れて普通の女性として生きて欲しかったのではないですか。知らないということがその証拠です。」
「…皮肉なものですね。まさか鬼の貴女に家族のことを教えられるなんて思いもしなかったです。でも…ありがとうございます。知りたかったことが知れました。」
「お前、また珠世様のことを愚弄したな…?!許さん…!」
「愚弄なんてしてないですが、殴りたければどうぞ。それくらいの強い刺激がなければ今の状況が現実だと思えないほど狼狽えてますから。」
これが皮肉と言わず何と言おうか。
鬼に家族を殺されたのに、知らなかった自分の生い立ちを教えてくれたのは鬼の珠世さん。
しかも神楽家が鬼を作り上げてしまった祖先の家系だなんて。
受け入れるには時間がかかる。
でも、こんなに追い詰められて思い浮かぶのは愛おしい人の顔。
どうしようもなく彼に抱きしめられたくて
愛されたくて
彼の温もりが恋しくて
泣きそうになった。