第21章 桜舞う、君との約束※
「…あります。」
「その力は神楽家に生まれた女児にだけ受け継がれます。そして神楽家の女児にはもう一つ特別な能力があります。」
「…特別な、能力…?」
「…それは貴女の血液にあります。今日はその話をしに来ました。ほの花さん、貴女の力を貸していただけませんか?」
鬼の彼女が私に協力を申し出るなんてことを誰が思いつくだろうか。
彼女が手を差し出したその瞬間、鳥肌が立った。
鬼殺隊として、その手を取ることは絶対に許されない。私は鬼の殲滅を生業としている鬼殺隊の隊士なのだ。
この手を取ることは産屋敷様に背くことになる。
宇髄さんも、……裏切ることになるのではないか。
「……私は、鬼殺隊士です。鬼の貴女に協力をすることは…できません。」
「な、お前!珠世様が折角申し出て下さっているというのに無碍にするつもりか!」
「愈史郎…、やめなさい。」
怒り出した愈史郎という青年を制止する珠世さんという人は冷静にこちらを見据えている。
どう考えても悪い人には見えない。
それなのに"鬼"だという事実に見えない一線を踏み越えさせるのを理性が止めているのだ。
そんな私の様子すら分かっているようにも見える。
「…私は鬼ですが鬼殺隊と目的は同じです。鬼舞辻無惨を倒すために貴女の血が必要なのです。貴女の当主のためにもなります。どうか協力しては頂けませんか?」
鬼なのに鬼舞辻無惨を倒すために暗躍していると言うことなのか。珠世さんと呼ばれた人は"鬼舞辻無惨を倒す"というところだけ物凄く憎しみを込めたような言い方だった。
そうだとしても…鬼と手を組むなんて有り得ない。
私は裏切り者になってしまう。
それなのに彼女が何処か母の雰囲気に似ていて、急に込み上げるものがあった。
「…どうすればいいんですか?」
協力なんてするつもりなかった。でも、断ることもできなかったと思う。
この時の私はぐちゃぐちゃな感情の中、自分の生い立ちを知りたいと言う欲が一番強かったように思う。
「…まずは貴女のその能力について少しお話しましょう。」
そう言うと珠世さんは悲しそうに微笑んだ。
その姿が儚くて、彼女の苦しみが伝わるようだった。