第21章 桜舞う、君との約束※
舞扇を下ろすと漸く愈史郎さんの機嫌も少し落ち着いた様子でその場で静かな空気が流れていく。
「…貴女は私のことを何故そんなに詳しく知っているのですか?」
「私にとっても陰陽師の家系で…特に神楽家は特別な存在でした。貴女の母は遠い昔、私が医術を教えた子の子孫なのです。異国の地に旅立ってしまったことで医師と薬師に分かれたようですが。」
「…珠世さんは…鬼、ですよね?」
「そうです。」
それを聞いた瞬間、再び気が引き締まるのを感じたが、目の前の鬼の首を斬ることよりも好奇心が勝ってしまった。
直感的に最近、感じていた違和感の正体をこの人は知ってる気がしたのだ。
「…神楽家は昔、鬼舞辻無惨を鬼にした医師の血縁者がいるのです。」
「け、血縁者…?」
「代々必ず妻に薬師を娶ってきたのはそのためです。その時に使った薬の調合をバレないように一子相伝してきました。そして…今は貴女がそれを受け継いでいる筈です。」
…知らない。
そんな薬の調合は聞いたこともない。
母は私に伝え忘れたのではないか。しかも、代々薬師を妻にしてきたなんて話は全く聞いたことがない。
薬師を妻にしたのは母が初めてだと聞いていた…気がする。
「知りません…。そんな薬のことも。神楽家が代々薬師を妻にしてきたなんて初めて知りました。」
「……貴女は守られて生きてきました。あの男が自分を鬼にした血縁者が陰陽師として生き残っていることを嗅ぎつけて、里を襲撃しなければ、一生知らずに生きていたでしょう。」
「…何故…、何故そこまでして私を…。」
「貴女が女だからです。神楽家の唯一の希望の光。神楽家は女児が産まれると不思議な能力を持って生まれてきます。貴女もありますね?」
珠世さんは確信があるんだ。
誰にも言うなと言われ続けたこの能力ですら、この人は知っている。
一体何者なのだ思う反面、不思議と彼女を鬼として斬らなければという気持ちは一切なくなっていた。