第21章 桜舞う、君との約束※
黙ったままみんな聞いてくれてるけど、せっかくこんな良い天気で綺麗な桜が咲いてるのに湿っぽい話なんてして申し訳ない。
でも、前はこんな話したら絶対泣けてきてしまっていたのに、今は泣けない。
話の途中から私の腰にさりげなく手を添えてくれている宇髄さんの温もりと彼の存在そのもののおかげだと思う。
「えーっと、すみません!湿っぽくなっちゃいましたね!でも、今はそんなこと思ってません!私にできることをやろうと思えますし、あの時生き残らなければ今の私はないわけですから。」
「…ありがとうございます。話してくれて。」
「いえいえ。何でも聞いてください!聞かれなかったのでうっかり言うの忘れてるだけで別に何を聞かれても答えますよ!」
そう、本当に話さなかったのは失念していただけで、そこに理由はない。
笑顔でそう答えれば、雛鶴さんが遠慮がちに言葉を紡いできた。
「でも、ほの花さんは薬師として立派にお仕事されてますからご家族は喜んでいると思いますよ。」
「雛鶴さん、ありがとうございますー、優しい…。」
「そういや、ほの花は薬師としてあんまり勉強してねぇと言ってた割にはすげぇ知識量だよな。あれはすげぇよ。本当に。」
宇髄さんまでそうやって褒めてくれるといよいよ照れくさくなって顔を下に向ける。それに勉強は本当にしていない。自分が母の知識と能力を受け継いでいると気付いたのは此処一年くらいのことで、それに関しては感謝しかない。
「それは本当に母のおかげ。私、赤ちゃんの時の読み聞かせされてたのも、子どもの頃に字の読み書きの練習に使われたのも全部薬事書関係の本だったの。あんな山奥だから他に読むものもなくて、部屋にあった殆どの本は一語一句間違うことなく覚えてるの。あと、よく歌ってる歌とかも母が作った薬の調合が組み込まれてる歌だったり、子どもの頃教えてくれた手遊びも全部薬の調合内容なの。気付いたのはつい最近だけど…。だから知らないうちに私は母に英才教育を受けてたみたい。」
「…それはすげぇな。知らず知らずに勉強してたっつーならほの花の財産じゃねぇか。良かったな。」
宇髄さんの言葉は最もで、私が生きてることも母の生きた証でもあるのだ。