第21章 桜舞う、君との約束※
「っはぁー……笑い死ぬかと思ったぜ…。」
「…私は恥ずか死ぬかと思ったけどね…。」
まさかこんなことがあり得るだろうか。心の中で挨拶しているつもりだったのに、まさかの声に出してしまっていたと言う恥ずかし過ぎる事実に泣きそうだ。
でも、先ほどまで神妙な面持ちだった宇髄さんがこんなに笑ってくれたのは嬉しかった。
過去の弟さん達のことはきっと笑えるような話ではないだろうし、未だに引き摺っているからこそ私にも言い淀んだのだと思う。
私なんかでは軽々しく気持ちを汲むこともできないが、せめて宇髄さんが素敵なお兄様だったと言うことは声を大にしてでも伝えたかった。
お父様の教育方針さえなければ、きっと今ごろ下の弟さん達に慕われる優しいお兄様だったろう。
宇髄さんは面倒見もいいし、懐も深いのだから。
"今"はいくつもの尊い命の上に成り立っている。私は家族や里の人たち。
宇髄さんは弟さん達。
そして"今"私たちが出会って愛し愛される関係になれたのも全ての事柄が合致したから。
きっと自分を未だに許せてない宇髄さんは一生弟さん達のことを忘れることはないだろう。
でも、それは当たり前のこと。私だって家族を、里の人たちのことを忘れることはない。
忘れてはだめなのだ。
忘れずに覚えていることが生きている人間ができる唯一の弔い。
だから毎年此処に来ると言う宇髄さんのことを弟さん達は楽しみにしてると思うし、今日も喜んでくれていると思った。
「生まれて初めて心の声を口に出してる奴を見た…。しかも自分の女…!」
「もう、忘れてよー!!」
「一生忘れられねぇわ!派手に面白ぇな!!」
弟さん達、見守って下さいね。
お兄様が無事にまた此処に来れるように桜吹雪で導いて下さい。
笑い転げている宇髄さんを見ると、ムッとするところなのに彼の笑顔に簡単に絆されてしまう。
今だけでも彼が悲しい過去を忘れてくれているならそれほど嬉しいことはないのだから。