第21章 桜舞う、君との約束※
桜が咲いているこの時期、俺は三人の元嫁達を連れて毎年弟達の墓参りに行っていた。
ほの花の里に行ってから、いつか俺も自分の家族に紹介したいと思うようになっていた。
絶縁している父親と弟に会わせることはできずとも、墓ならば連れて行きたいと思っていたのでちょうど良かった。
どこに連れて行かれるのやら分からないので最初は少しだけ不安げな表情を見せていたほの花だったが、山に咲き誇る桜を見れば満面の笑みで喜ぶ姿は本当に可愛い。
アイツらがいなければ思わず口付けてやりたいほどに。
手を繋いでいるから構わないのだが、桜を見上げながら歩くほの花が転びやしないか心配になる。それならば注意すればいいものをその顔に見惚れてしまい、もっと見たいと思う自分の欲が勝った。
"桜が大好き"だと言うほの花にこんなに喜ぶのであれば庭に桜の木でも植えてやろうと思うほど。
そんなほの花を横目に登り切った先にある平地には幾つもの墓石。しかし、今まで笑顔だったのにそこに到着した瞬間、ほの花の表情が固まった。
大きな目を見開き、じっくりと見つめるその視線の先にはもちろん墓石。
「天元様っ、お水汲んできますねぇ!」
須磨が俺の横を通り過ぎて手桶と柄杓を取りに行くと、後ろから次々と自分達を通り過ぎていった。
三人の元嫁達の後ろ姿は少しの悲壮感も漂って来ないが、隣にいるほの花は墓石を見たまま少しも動かない。
その姿に思わず「ほの花?」と声をかけてみると声に反応するようにこちらを見て少しだけ微笑んだ。
「…宇髄さんのご家族?」
「ああ。…弟達だ。」
「そ…っか。今日はいいお天気だね。雲も一つもない。きっとお空から見やすいよ。お兄ちゃんが来たよーって言ってあげないとね!」
やっと前を見据えたほの花が歩き出したのでその手に今度は自分が引かれるように歩みを進めた。
どうも此処に来ると感傷的になりがちだが、前を歩くほの花は俺の好きな笑顔を向けてくれていて頼もしく感じた。