第3章 立ち振る舞いにご注意を
ほの花様と別れて、向かうのは宿屋ではなくもちろん宇髄邸。
大体、何故そんな突拍子のないことが思い浮かぶのか不思議で仕方ない。
もちろん夫婦水入らずの時間というのは"普通の夫婦"であれば嬉しい贈り物だろう。
しかし、まさか本当に気付いてないとは思っていなかったが、宇髄様夫妻はお互いの目的が一致したために夫婦と言う形を取っているがその関係性は仲間に近い。
甘い空気が流れていたことなど一度もないし、そんなことはほの花様にも伝わっているかと思っていたが、昔から鈍感で有名な彼女のそれは健在で、そんな仮の夫婦ともいえる宇髄夫妻に夫婦の時間を贈るというトンチンカンな贈り物を意気揚々と提案された時には「この人頭大丈夫だろうか?」と護衛らしからぬ悪口が頭を埋め尽くす。
宇髄邸にいる誰しもが分かるほど、宇髄様はほの花様にとても優しく接してくれているし、それは継子云々の範疇を超えているように思う。
だが、宇髄様は敢えて気付かないフリをしているような気もするし、柱として命をかける仕事をしている以上、安易に恋仲になればいいのにとも言えないため進言はしていない。
これは恐らく彼の奥様達も気付いていると思うし、それに関して反対もしていない様子なので黙認なのだろう。
むしろ物凄く勧められていた気もする。
何にせよ、障害は彼らが取っている夫婦という型枠のみ。
きっとお互い望めばその型枠を取り払うことは簡単なことだろうが、宇髄様はほの花様のことがあったからそれを解消しようと言うのは自分勝手すぎると思っているのだろう。
超えてはいけないギリギリを攻めているように感じる。
「宇髄様はもう帰っているだろうか?」
「どうだろうな。出来れば帰ってくる前に置いてきたという手紙を早いとこ見つけ出して破棄してしまおう。」
「それが良い。兎に角急ごう。」
本当に手のかかるお嬢様だ。
しかし、彼女の幸せにつながるのであれば少しくらいのお節介も仕事のうちだと苦笑いをした。