第20章 未来花嫁修行※
私の悪いところ、集中すると周りが見えなくなるところ。
だけど、今回はそれが長所だと思えた。
私は全ての人の処置が終えるまで集中が切れることなく、怪我人の手当てを終えることができた。
薬箱の中に入れ込んできた薬は完売御礼。
すっからかんになったそれが役に立てたことを物語っていて頬を緩ませていると、可愛らしい声が降ってきた。
「ほの花さん、ありがとうございました。助かりました。」
「いえ…!良かったです。一人も亡くならなくてホッとしました。」
「ほの花さんのおかげですよ。お茶でも飲みませんか?」
しのぶさんがニコニコとしながら労いの言葉をかけてくれてお茶を勧めてくれたが、流石に疲労困憊の私は丁重にお断りをした。
「えっ、と…今日はやめておきます。帰って休みます。」
「そうですか?分かりました。気をつけて帰って下さいね。」
頭を下げて「失礼します」と挨拶をすると薄暗い雲間から太陽の光が差し込んでいる道をゆっくりと歩く。
宇髄さんが帰ってくるのは明日だったはず。
彼の言う通り疲労困憊の自分の影が太陽の光で道に映し出されている。
肩が落ちて随分と情けない。
蝶屋敷に来る時、ゆっくり歩いて行ったとしても20分くらいで着くと言うのに今日は30分以上かかってしまった。
まだ時刻は6時前。
玄関から入ると、誰か起きてしまうといけないので縁側に回り込みいつものように部屋に向かう。
(…宇髄さんに会いたいなぁ)
疲れた時、一番最初に会いたい人。
彼に抱きしめてもらえば疲れが癒える気がした。明日が待ち遠しい。
しかし、縁側に座り履物を脱ぎ、部屋に入ろうとした瞬間、「ほの花?」と大好きな人の声が聞こえて顔を上げた。
帰ってくるのは明日のはず。
いるはずがない。
幻聴?
そう思ったのに朝陽に照らされてそこにいたのは紛れもなく宇髄さんで私は迷わず履物も履かずに彼の元に走って行った。
早く彼に触れたくて飛び付くと驚いた様子だったがちゃんと体を受け止めてくれる。
話したいことは山ほどあるのに咄嗟に出てこなくて絞り出すように「おかえりなさい」と言うと大好きな手が私を撫でてくれた。