第20章 未来花嫁修行※
「ほの花は疲れてないかい?少し元気がないように思うけど…。」
薬箱から薬を出しているとそんなことを産屋敷様に言われてしまって驚いて顔を向ける。
この人は本当に宇髄さんと同じくらい隠し事ができない気がする。
心の内を全て覗かれているようで恥ずかしさすら募った。
でも、産屋敷様の優しい眼差しについつい口からぽろぽろと言葉がこぼれ落ちていく。まるで親に甘える子供のよう。
「…あ、いえ、その。ちょっと、自信がなくなってしまって…」
「自信?天元と何かあったの?」
ほら、産屋敷様はやっぱり私のことを結構分かってくれている。普通、いまの話の流れだと薬の調合に来ているのだから"薬師としての自信"だと思うところ、彼はドンピシャで宇髄さんの名前を出した。
こう言うところ…本当に敵わない。
「何かあったわけではないんです。ただ…すぐに心配して私には何もさせてくれないんです。」
「…ほの花は天元に何をしてあげたいの?」
「婚約者…って言ってくれてるんですけど、もっと宇髄さんの身の回りのことをしたいのに…私には頼んでくれなくて…。」
「それは…天元がほの花にして欲しいことなのかい?」
「……え?」
産屋敷様の言葉に私は声を詰まらせた。
"天元がほの花にして欲しいことなのかい?"
そんな風に考えたこと、ない。
確かに彼が私にして欲しいと頼んできたことではない。
望まれたこともない。
でも、婚約者と言えばこう言うことをしなければ!という固定観念があった私が勝手に"頼んでくれない"とモヤモヤしていただけのこと。
「…いえ、私が…してあげたくて…。」
「でも、天元はそれを望んでないんだよね?」
怒るわけでもない。
諭すような声色で話す産屋敷様の言葉が脳に直接語りかけてくる。
「天元はほの花に何かして欲しいわけじゃないと思うよ。それよりも自分の隣で君が笑ってるのを見たいんじゃないかな。」
「……でも、それじゃ、…私、何にも役に立ってないんです…。」
すると産屋敷様は少しだけ身を乗り出して私の頭を撫でてくれる。
その手の温かさに止まったはずの涙が再び込み上げてきて、目から流れ落ちた。