第20章 未来花嫁修行※
私の悪いところは悪いことを考えすぎてしまうこと以外にもう一つ。
それは……
「…お腹すいた…。」
集中すると周りが見えなくなって、物事に没頭してしまうこと。
何度か夜通し薬を作っていて時間が経つのを忘れて、早朝に任務から帰ってきた宇髄さんにこっぴどく怒られたのも一度や二度ではない。
結局、薬の調合をしていてうっかりお昼ごはんを食べ損ねてしまい、薬箱を持つと慌てて産屋敷様の屋敷に向かう。
考え事をすると考えすぎて時間が経つのを忘れ…
何かに没頭するとやりすぎて時間が経つのを忘れ…
こんなことばかりしていたら一日が二十四時間なんて全く足りない。
自分の悪い癖にため息しか出ない。朝方じゃなくて良かった。宇髄さんに怒られてしまうのは容易に想像できるし、心配かけたいわけじゃない。
ただ癖だからなかなか直らない。それだけのこと。
全速力で走っていったので、なんとか約束の時間に間に合い、産屋敷邸の玄関の前で息を整える。
いくら体力も持久力も宇髄さんに鍛えてもらったとはいえ十五分も走れば息は上がる。
いつ見ても立派な門構えのそこは来る度に気持ちが引き締まる。息が整うと「御免ください」と声をかけて中に入るといつものようにあまね様が迎えてくれた。
「ほの花さん、よろしくお願いします。」
「はい!ギリギリになってしまい申し訳ありません。」
「とんでとないです。お忙しいところありがとうございます。主人共々感謝しております。」
いつものお部屋に案内されると産屋敷様が起きてこちらを振り返っていた。
ご気分が良いのだろうか。穏やかな顔を向けてくれるのは薬師としてとても嬉しい。
「ほの花、よく来たね。ありがとう。」
「産屋敷様は本日は体調が良さそうですね?嬉しいです。」
「ああ。だいぶ暖かくなってきたからかな。とても気分が良いんだ。それに君の薬膳茶もよく効くみたいで寝起きのだるさも寝つきの悪さも無くなったよ。」
薬師として患者さんの症状が緩和することほど嬉しいことはない。
産屋敷様のように不治の病を患っている人を見ると特にそう思う。
薬箱を床に置き、彼の隣に座るといつものように処方箋を手に取った。