第20章 未来花嫁修行※
どれだけ頑張れば彼に求めてもらえるの?
いつからか私の頭はそのことでいっぱいになっていた。婚約者として紹介された時に恥ずかしくないような振る舞いをしたいし、みんなに自慢だと思ってもらえるような女でいたい。
「ほの花さん、昨日は朝ごはんだいぶ作ってもらっちゃってありがとうございます!今日は休んでていいですからね!天元様も心配してましたよー?」
翌朝、すれ違ったまきをさんにまでそんなことを言われてしまって、宇髄さんが私に無理をさせないように言い回っていることがすぐに分かってしまう。
「…ありがとうございます。でも、手が空いていたらお手伝いしますから。」
「あと一週間は琥太郎くんのお母さんも居てくれるからほの花さんは休んでもらって大丈夫です!」
まきをさんの言っていることは的を得ている。確かにお母さんもまだ居てくれているからそんなにたくさんの人が台所にいてもやることはない。それどころか手狭になってしまうので好ましくないのかもしれない。邪魔になっていては元も子もないので、仕方なく頷く。
「…わかりました。では、必要なら呼んでくださいね。」
「はい!ありがとうございます!」
しかし、まきをさんの手に握られている着物に釘付けになる。その柄に見覚えがあったし、何より物凄く大きいことが持っている彼女の手の容量的にわかる。
「…それ、どうかしたんですか?宇髄さんのですよね?」
「え?ああ!ほつれちゃってるらしくて朝頼まれたんです。ほら、ここ。」
そうやって見せられた着物は確かにほつれちゃっているので繕う必要がありそうだった。
(…これも、頼んでくれないんだ…。)
見たところそこまで時間もかからなさそうな頼み事なのに彼は私ではなくまきをさんに頼んだ。
そのことが情けなかった。
もう良いや。
頼んでくれないなら自分で見つければいい。
目の前にいるまきをさんに「私がやってもいいですか?」と言ってみれば困惑した表情をして断られるが、懇願するように頭を下げると慌ててそれを渡してくれた。
着物を持ち部屋に戻ると私は止まらない涙を拭きもせずに彼の着物を繕った。
こんな私が婚約者を名乗ることが情けなくて恥ずかしくて。
終わる頃には彼の着物は涙の染みがたくさんついていてそれが余計に悲しみを増長させた。