第20章 未来花嫁修行※
翌日、目を覚ますと腕の中にいた筈のほの花の姿が無く、目を見開いた。
勢いよく起き上がってもそこに愛おしい女の姿はない。いつもあんな風に激しく抱いてしまえば朝起きるのは必ず俺のが先だと言うのに。
外はまだ薄暗く、漸く日が昇りかけたところだろう。
厠ならそのうち戻ってくるかもしれないし、布団から香るほの花の匂いにつられてもう一度体を横にすると、遠くの方から聴き覚えのある足音が聴こえてきた。
(…やっぱ厠でも行ってたのか。)
咄嗟に寝たふりを決め込むと、その足音は迷うことなくこの部屋の襖を開けた。近づいてきた事でふわりと香る匂いは間違いなくほの花。枕元に何かを置いたようだった。
しかし、彼女は此処に留まらずにもう一度襖を開けて出て行ってしまったところで起き上がった。
「…は?アイツこんな明け方に何してんの?」
厠に行っていたのならば再び出て行ったのは何故だ。腹でも壊してんのか?そんな雰囲気ではなかった。
そういえば、枕元に何を置いたのだろうか?と視線を向けるといつも朝に出してくれる薬膳茶が置いてある。
熱々なのは起きた時にちょうど良い温度にするためだろうか。
しかし、何がゆっくり寝られるだ。
全然寝てないじゃないか。
俺は立ち上がるとほの花の足音がした方向にむけて歩みを進めた。
トントンと言う音が聴こえてくるのは台所で何をしているかはその音だけで一目瞭然。
まだ誰も起きていないそこで一人何をしているのだ。
休みは昨日だけ。今日からまた忙しい日々が始まるのだからもっと寝ていればいいものを。
「お前、何してんの。」
「うっひゃぁぁあっ!え、び、っくりしたぁ!もうー!音も無く近づかないでよー!」
「仕方ねぇだろ。お前が逃げるといけねぇからな。で?何してんだよ。まだ寝てろよ。」
「え?!だって、わたし、昨日すごく早く寝ちゃったから…朝ごはんの準備しようと思って。」
そこには既に味噌汁やらおかずがいくつか出来上がっていて、米が水につけてあり炊くだけの状態。
一体何時から起きているのだ。
ため息を吐き、ほの花の顔を見るとまだクマが色濃く残っていた。