第20章 未来花嫁修行※
ほの花の部屋は隣だ。
戻ってこれば気配でも分かるが、物音でもわかる。
それなのに、タオルを持って行ったほの花が部屋に戻ってくる気配をちっとも感じないのでどこに行ったんだと探しに行くことにした。
特に用事があったわけではないが、たまにの休みなのだからゆっくりとほの花と茶でも飲みながら夕食までの間話そうと思っていた。
それなのにちっとも戻ってこないほの花を一つ一つしらみ潰しに部屋を覗いて探していくと風呂場から愛おしい女の声が聞こえた。
(…何だよ、まだタオル渡してなかったのか。)
それならば仕方ないか、と思ったが、どうもほの花の声が脱衣所ではなく、もっと奥から聞こえてくる気がする。
それも水の音と狭い空間に感じる特有の声の響き。
もちろんそれは琥太郎の声も聞こえるわけで。
(…アイツ、何してんだよ。)
そう思って静かに風呂場の扉を開けて、その扉を閉めた時、勢いよく風呂場から脱衣所に飛び込んできた琥太郎の姿に目を見開く。
明らかに"まずい"と顔が言っているところを見ると俺は唇に人差し指を添えて静かにするように伝える。
琥太郎は馬鹿じゃないし、空気も読めるのでコクンと頷くと風呂場の扉を閉めてそそくさと体を拭き始めるが、俺の方を見て何かを訴えかけている。
「ねぇー?本当にもう出るのー?戻っておいでよ〜!」
だが、言わずとも何となく分かる。この声を聞いてしまえば。どうせほの花がコイツの了承も得ずして勝手に入って行ったのだろう。
子どもだからいいだろという安易な考えの下。
身支度を終えた琥太郎の髪を少し拭いてやると「悪かったな。俺の女が。」と小声で言うと首をフルフルと振ってくれる。
「悪ぃけどアイツにお仕置きするからみんなに先に飯食うように言っておいてくれるか?」
「わ、わかった…。」
子どもに何を頼んでるんだと思われるかもしれないが、これは堪忍袋の尾が切れるってもんだ。
俺は琥太郎を外に出すとそのまま風呂場に直行する。