第3章 立ち振る舞いにご注意を
「お、お邪魔しまーす…。」
「おぅ。」
連れてこられた立派なお屋敷に着くと「あがれやァ」と言う不死川さんに言われたので履物を脱いで揃えるとおずおずと入っていく。
いくら兄の面影を見たからと言って彼は自分の兄ではない。
気軽に話しかけてくれたが"柱"なのだ。
自分なんかは足元に及ばないほどの強さで宇髄さんの継子でなければ話すことすらできない雲の上の存在なのだろう。
「上等な茶はねェけどよォ、淹れてくるから待ってろォ」
「ちょーーっと!待ってください!!それくらい私がやります!ので!!わたし、継子なので!!」
「はぁ?お前は宇髄の継子だろうがァ。」
「そ、そうなんですが…、下っ端なのでやらせてください!いえ、やります!やらねばなりません!」
どこの世界に先輩に茶を淹れさせる後輩がいるだろうか。
どこの世界に上司に茶を淹れさせる部下がいるだろうか。
どこの世界に親分に茶を淹れさせる子分がいるだろうか。
どこの世界に(もごもごもご)
兎に角、不死川さんにはここに連れてこられたが流石に客間で茶を出されるのを待っているのは忍びない。
「お台所はどこでしょうか?!」
「わ、わかったからァ!落ち着けやァ。こっちだ。」
あまりの私の勢いに若干引き気味の彼に連れられたのは立派なお台所。
宇髄さんの家とは違い、簡素で最低限の物しかない。まぁ、宇髄さんは奥様が三人もいらっしゃるし、自然と彼女達が使いやすいように物も増えるだろうが。
「お湯を沸かしますね。」
「あァ。茶葉はそこだァ。」
「お一人で暮らしていらっしゃるんですか?」
「あァ。」
柱というのは皆こんな立派な屋敷に住んでいるのだろうか。一人で暮らすには広すぎる気もしないでもないが、彼もまた家庭を持つ頃にはこの広さを持て余すことはないだろう。
そこまで考えると彼に誘われたとは言え、女一人でこんなところに来てしまい、彼の良い人に誤解をされやしないか心配になってしまった。
いつだったか正宗達に「ほの花様は鈍感すぎます」と言われたことを思い出す。
こういう考えなしなところも神経が鈍い証拠だろう。