第3章 立ち振る舞いにご注意を
その場で話し込むこと数分経った頃、不死川さんの手に包みが握られていることに気づく。
そこから香るのは小豆の良い匂いで、思わず聞いてみた。
「ひょっとして…それおはぎですか?」
「あ?あ、あァ…。」
「私もおはぎ大好きなんです!匂いで分かっちゃいました!あ…すみません、お引き止めしてしまって。お家で食べるところでしたよね?話しかけて下さって嬉しかったです。では…また。」
小さい頃からこの匂いがすると母がおはぎを作ってくれていた。手作りのおはぎは甘さ控えめで子どもでも食べやすいように小さめに作られていて、私はそれが大好きだった。
不死川さんに頭を下げてその場から立ち去ろうとすると、急に腕を掴まれた。
「…仕方ねェからご馳走してやるかァ。ついてこい。」
「え、え、ええ?!ちょ、不死川さん?!」
それどころか引き摺られるように連行される私を助けるどころか立ち止まったまま手を振っている三人に目を見開く。
「我々は宿屋を探しておきますので、ごゆっくりー!」
あ、そういうこと?
さっきまでアレほど乗り気じゃなかったと言うのに今度は自ら宿屋を探すと言ってくれたことに驚いたが、柱の力に太刀打ちなどできないし、逆らったら宇髄さんが困るのかもしれないと思うと何も言えずにそのままついて行くことにした。
宇髄さんの継子として失礼なことをしたら師匠である彼が恥をかくことになるからだ。
それに不死川さんは悪い人じゃなさそうだし、鬼殺隊にお世話になる以上、親睦を深めることも大切だろう。
甘いおはぎの匂いのする不死川さんに引っ張られながら私は彼の家へ向かった。
しかし、目の前を歩く姿が急に自分の兄と重なって見えて少しだけ感傷的になってしまう。
そういえば兄はよく迷子になると迎えに来てくれてこうやって手を引っ張って家に連れて帰ってくれたから。
私は掴まれた腕の既視感を懐かしく思い、不死川さんの家に着くまでずっと頭の中は兄の思い出で埋め尽くされていた。