第20章 未来花嫁修行※
「なぁ、今ある浴衣は親に貰ったのか?帰ったら見せてくれよ。」
「え?捨てろって言われるかと思った。」
「流石に親に貰ったんならそんなことさせるわけないだろ。夜着にでもしやぁいいだろ。」
「…あ、ああ。うん。そ、そだね。」
帰り道、宇髄さんが貰った浴衣を見せろと言ってきたが、私は重大なことを伝え忘れてしまい、途方に暮れている。
どうしよう。いま言わないと、後から言ったらもっと怒らせるのではないか。
言え。言うんだ。
意を決して、隣を歩く宇髄さんの腕を掴むと不思議そうな顔をしてこちらを見下ろした彼に絶望への報告を始める。
「あ、あのね…、浴衣は、両親にもらったんじゃないの。」
「は?でも、お前、貰い物って言ってなかったか?」
「あの、別の人に、も、貰いました。」
「ふーん。兄貴とか?」
「いや、お兄様でも、なくて…。」
あまりに私が言いにくそうに話すので、勘のいい宇髄さんがその様子に気付くのに時間はかからない。眉間に皺を寄せると「んー?言ってみ?」ともっと腰を引き寄せられた。
「さ、真田さんに頂きました。」
「帰ったら捨てろ。いや、燃やせ。」
にっこりと笑顔なのに目が全く笑っていない。
あの浴衣は里にいる時に元縁談相手の真田清貴さんが最初にお会いした時に贈ってくれたもの。
思い入れがあったわけではないし、それを持ってきたのは一度も袖を通してなくて、癖もついていなかったので里を出る時に持ってきやすかった。ただそれだけのこと。
「アイツだけじゃねぇ。他の男にもらったモンがあるなら全部捨てろ。」
「わ、わかったよ。こ、こわいよ?顔怖いよ?!」
「分かったっつーことは他にもあるんだな?俺は聞いたことも見たこともねぇんだけど?」
「ちょ!な、ないって!ないです!今のは言葉のあやってやつで…!」
不満そうにこちらを見つめる宇髄さんはため息を吐くと人々が往来する道のど真ん中でいきなり口づけをしてきた。
それはもう長くて深いものを。
しかし、離れようにもガッチリと体を拘束されてしまっていれば宇髄さんの力に叶うはずもなく、私は痛いほどの視線を大量に受けながらその口づけが終わるのを待つしかなかった。