第20章 未来花嫁修行※
何が"通行人に後ろ指差される"だ。
冗談でも色眼鏡でもなく、こんな美しい女を見てため息こそ出たとしても、"後ろ指差される"ことなど絶対にない。
自信がないとかそういうんじゃねぇ。
謙遜してるとかでもねぇ。
本当に自分というものをわかってねぇ。
こういうところだけ派手に信じられねぇ。
だが、そこを"分かれ''と言うのはほの花には荷が重いだろう。十九年間もあの場所で過ごしてきたのだ。もうある程度の感覚は備わってしまっている。
「あの、浴衣ありがとう…。出来上がるの楽しみ…!」
「ああ。構わねぇよ。俺がお前に仕立てたかったんだから。すげぇ似合ってたし」
「あはは…、ありがとう。」
いま、コイツの頭の中で「また宇髄さん色眼鏡で見て…」と思ったのが手に取るようにわかる。こういうところもほの花の良いところだと思うようにするしかないか。欲まみれで自信過剰の女よりも遥かに慎ましくていいじゃねぇか。
俺だけがわかってやってれば良いだけの話だ。
これから先、他の野郎にやるつもりもないし。
「アレ着て、花火観に行くからな。楽しみにしてろよ。」
「うん!ありがとう!ところで花火って何?」
「………お前、そっちもか。いや、そうだよな。あんなクソ山奥に花火なんてあがんねぇわな。」
まさに"里入り娘"。
大事に大事に育てられたのだろう。
世間の一般的な常識はちゃんと心得ているのに年頃の女が経験するようなことをして来なかったほの花にとって"初めてのこと"が多いのは恋人としては嬉しい限りのこと。
好きな女の"初めて"を共に経験できるなんて早々あるものじゃない。だからこそほの花のそういうものを一つ一つ共有できる喜びは俺しか経験できないのではないかと思うとにやける顔を抑えることができない。
「…夜空にデッケェ花が咲く瞬間見せてやるから楽しみにしとけ。」
「え?!空に花が咲くの?!どうやって?!」
「…お前な、俺の情緒感溢れる最高の言い回しの上げ足を取るんじゃねぇ。」
キョトンとしているほの花の腰をもう一度引き寄せると呉服屋を後にしたが、暫く「空に花…?」と呟く隣の女の独り言を聞かないふりをした。