第20章 未来花嫁修行※
馴染みの呉服屋でほの花の浴衣を仕立ててやろうと思って連れてきた。
此処は昔から良い仕事をする呉服屋で三人の元嫁達も"欲しけりゃ買ってこい"と金だけ渡して来させたこともあるほど気に入っている。
ほの花は華美なものを身につけることは殆どないが、持っている着物や服は割と品の良い上質なものが多いので、恐らく親が設えたものだろう。
旧家だがあのデカい屋敷を見る限り、貯えはあっただろうし、山奥に住んではいたが良家のお嬢様と言って間違いない。
だが、あんな山奥に暮らしていたせいでほの花は年頃の女にしてはお洒落に興味がない。
…というより"分からない"のだろう。
身なりがきちんとしているのはおそらく母親に最低限のことを教わったからではないかと思うが、それ以上を望まないのはあんな山奥にいたせいもあり"知らない"からだろう。
贈った花飾りも耳飾りも毎日つけてくれているが、それ以上望まないのも自分を"知らない"からだ。
どれほど自分の容姿が美しいのか知る術がなかったからだ。
今日だって雛鶴が施した化粧は見事なもので心臓が暫く鳴り止まなかった。
着飾らせてこれ見よがしに自慢してやりたいが、いつものほの花ですら連れて歩けば誰もが振り返るのだから悩ましいところだ。
どちらにしても野郎どもの視線を集めちまうのは俺としては腹立たしいことではある。
旦那が茶を出してくれたので最近入ってきたという生地を見せてもらいながら談笑していると女将が奥から苦笑いを浮かべながら近寄ってきた。
「宇髄様。少し宜しいですか?」
「ん?ああ、決まったか?」
「ふふ、いえ、その…。随分と悩まれているご様子でして…。」
「あー…まぁ、そうなるわな。アイツ、本当欲がねぇ女なんだわ。今行く。」
欲がないほの花が自ら選んで「これが欲しい」と言ってくれるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだな。
俺は茶を飲み干すと女将の案内でほの花が派手に悩んでいる部屋へと向かった。