第20章 未来花嫁修行※
号泣する母親の隣で慰めるように背中をさすっていた琥太郎が俺を見て急に立ち上がる。
目を彷徨わせていたが、次の瞬間その目から涙が溢れてきて驚いた。
口が悪くて、やけに大人びていた琥太郎が弱音を吐くことはなかったし、怪我をした時ですら泣かなかったと言うのに。
「っ、う、ずいさん、ありがと、ございます…。」
嗚咽混じりでそんな風に御礼を言われてしまったので頬が緩んだ。
「…気にすんな。しっかりと真っ当に生きろ。ほの花に生かされた命を無駄にすんなよ。」
「は、はい、…。」
急に畏まった様子の琥太郎に落ち着かなかったというのに、隣にいたほの花までもが号泣し出したので今度は顔を引き攣らせた。
「おい、何でお前まで泣くんだよ。」
「だ、だって、…!宇髄さん、か、かっこよすぎて…、もう、っ、好き…ぃ。」
「…そりゃどうも。嬉しいけどよ、三人で泣くな。俺が泣かせてるみたいだろうが。」
チラチラとこちらを見ていく通行人にどうも落ち着かない。側から見たらデカい男が女と子供に借金の取り立てでもしてるように見えるのだろう。やたらと辛辣な視線が向けられるのが何とも苛つく。
「だぁーーー!兎に角!お前らは此処に住め!分かったな。必要最低限の金はやるし、準備できるまでは俺の屋敷にいりゃぁいい。これは鍵な。適当に見てこい。俺はほの花と出かけてから帰る。じゃあな。」
これ以上、誤解されない内に切り上げたかった俺は家の鍵を渡すと、隣で泣いてるほの花の手を引いてその場を去った。
「宇髄様ー!」「ありがとうございます、神様!」とか言われて喜んでくれると思っていたのに、予想に反して御涙頂戴の結末にどうもむず痒い。
琥太郎があそこまで泣いて喜んだのは嬉しい限りだが、隣で号泣しているほの花は完全に予想外でため息を吐く。
しかし、せっかくの休みだ。
桜並木を見ながら散歩するだけでもほの花とならば良い休日だと思えるのだから不思議だ。
人のために悲しい時も嬉しい時も涙を流せる優しい女が自分の恋人で良かったと心から思った。