第20章 未来花嫁修行※
桜が咲き始める頃で綺麗な桜並木を抜けると春の風が吹いて、髪が靡いた。そんな私の髪についた桜の花びらを取ってくれると「もうすぐ着くからよ。」と言って彼の指差した方向を向く。
連れてこられたのは一軒のお家。
見ただけでそれが何か分かってしまった私は口を手で覆ったが、後ろにいた二人はキョトンとそれを見たまま。
宇髄さんがそんな二人に向き合うといつものように強気な笑顔を向けた。
「二人で此処に住めよ。広くはねぇけど、二人で住む分には事足りるだろ。」
彼の言葉に目を見開いた琥太郎くんとお母さん。
暫くその言葉の意味すらも分からず、ボーッとしていたが、お母さんが拒否をするかのように首を振り号泣し出したので、琥太郎くんも我に返ったようだ。
「…い、いけません!そこまでして頂くわけには…!!」
「そうは言っても家は流されて、住むとこも着るもんも何もねぇだろうが。」
「そ、それは…、そうです、けど…。しかし、此処までして頂いてはバチが当たります…!お二人には返せないほどの恩義を受けました。これ以上は…!」
「此処は元々物置にしてた家だから暮らしていけると思うが、そこまで綺麗じゃねぇ。
だから自分らで掃除とかして使ってくれたらいい。わざわざあんたらのために建てたわけでもないし、使われないままより住んでくれんならこの家も嬉しいだろ。」
私は無意識に宇髄さんに擦り寄ると彼の手を握った。
何て大きな人なんだろう。
私みたいなちっぽけな人間ができることなんか限られている。最初から彼に相談しておけばこんなことにはならなかったのかもしれないが、今更言っても仕方ない。
「…で、でも…、」
流石に家を貰うなんてことをすぐに受け入れることなんてできないだろう。
それが一般的な感覚でお母さんは間違っていないと思う。
それでも彼は言葉を続けた。
「琥太郎はまだ子どもだ。周りがちゃんとした環境を整えてやることが大切だろ。道を踏み外さねぇように。だから琥太郎のためにも此処に住むと良い。礼ならたまに俺の女に甘味でもやってくれ。それで十分。」
その瞬間、嗚咽と共に崩れ落ちるように号泣し始めたお母さん。それを見て琥太郎くんが寄り添って背中をさすってあげていた。