第20章 未来花嫁修行※
しかし、眠りに誘われたのはまさかの俺だけだったようで、目を開けるとほの花は腕の中におらず、部屋を見渡してもいなかった。
「…は?アイツ、どこ行きやがった…。」
不満は声となって部屋に吸い込まれるが、そんなことを言ってもいないものはいないのだ。
仕方なく体を起こすとまた枕元に茶器が置いてあってそこには白湯。
そろそろ起きるだろうと置いてくれていたのだろう。
それを一口飲むと喉から胃にかけて温かさが広がる。まるでほの花を飲んでるみたいな感覚に陥るとただの白湯なのにいつもより美味く感じた。
それにしても俺の女はどこに行ったのだと立ち上がって庭の襖を開けるとほの花が琥太郎と準備運動をしているのが目に入った。
俺が襖を開けたことでほの花と目が合ったが、のんきに「あ、おはよー!」なんて言うものだからずっこけそうになる。そんなことしてるくらいなら自分の腕の中にいて欲しいと言うのに俺の願いは叶う日が来るのかと思うほど、思い通りにならないほの花。
(…ま、そこがいいんだけどよ。)
呆れたように二人を見るとほの花が思い出したかのようにこちらに駆け寄ってきた。
下から上目遣いに見上げられてしまえば勝手ににやける顔を止める術を知らない。
「宇髄さん、ご飯食べれる?持ってくる?」
「ん?あー、…ん。そうだな。じゃあ頼むわ。」
任務の時は食べずに寝て大体仮眠から起きた時に遅めの朝餉を食べるのはいつものこと。こうやってほの花が準備してくれるのもいつものこと。
しかし、彼女の顔には変わらずクマの跡が散見するし、此処にいたと言うことは宣言通り寝なかったのだろうか。
「待っててね!」と嬉しそうに駆けていくほの花を見送ると琥太郎に向き合った。
「アイツ、ずっとここに居たか?」
「いや?ついさっき来たんだよ。だから変なヤキモチやめろよ。」
「はぁ?ヤキモチじゃねぇし!自分の女の行動範囲の確認だ!」
「気持ち悪ぃくらい"ほの花馬鹿"だな。おっさん…。」
"ほの花馬鹿"という言葉が何ともしっくり来て子どもだがなかなかの言葉選びだと感心した。