第3章 立ち振る舞いにご注意を
鬼がどれほど強いのか、さっきまでは想像すらできてなかった。
だから宇髄さんの修行もキツくてツラくて、「鬼!」だなんて思ってしまっていたけど、当然だったのだ。
今の自分では恐らく鬼門封じを使う前に絶命するのがオチだ。
対等に戦う…とまではいかなくとも、せめて足手纏いにならないようにはなっておかなければ鬼殺隊の皆にも迷惑がかかるのだ。
「陰陽師一族は陰陽道を使えるから呼吸は使えないようなんだ。君ができることは技の精度を上げることと基礎体力と戦いに慣れることが大事だね。天元は適役だと思うよ。頑張ってね。」
「…はい。頑張ります。」
産屋敷様の話を聞いて、やはり彼は神楽家のことだけでなく私のことも色々知ってくれていることが分かった。
母が調合した薬をここに届ける時に父母とよく兄や私の話をしたそうだ。
私自身はここに来ていたことも知らなければ、産屋敷様と言う存在自体もあの日に初めて知った。
しかし、産屋敷様はずっとずっと前から私のことを知って下さっていたことがわかると天涯孤独になったと思っていた気持ちが一新し、烏滸がましいが遠く離れて会えなかった親戚に会えたような感覚に陥った。
調合が終わり、薬をお渡しすると最後に気になっていたことを聞こうと懐から舞扇を取り出した。
「産屋敷様、この舞扇に見覚えはありますか?」
「勿論あるよ。それは随分前に宗一郎さんが作って欲しいと頼んできたものだよ。娘に護身用で持たせておきたいと言ってね。」
「……!!切先が金色になるのは…」
「陰陽師の特徴らしい。君の兄君達もそうだったろう?」
ああ…宇髄さんありがとう。相談してよかった。
産屋敷様は知ってくれていました。私の知らない両親の言葉を、行動を。神楽家のことを。
もうこの世にいないけれども、ここで再び家族に出会えた。人の想いは決してなくならない。
そこに人がいる限り。