第3章 立ち振る舞いにご注意を
──産屋敷邸
正宗達には客間で待ってもらい、私だけ産屋敷様の私室に入ると深くお辞儀をする。
「やぁ。ほの花よく来たね。天元とはうまくやってるかな?」
「はい。お気遣い頂きありがとうございます。宇髄さんにはとても良くしていただいております。産屋敷様のおかげです。」
産屋敷様はちょうど医師の診察が終わったようで、薬の指示書が卓の上に置いてあったので拝見する。
内容的にはお加減に大きな変化はなさそうだけど、立っているのがお辛くなってきた様子と記載されていた。
「産屋敷様、頭痛などの疼痛はありませんか?」
「たまにあるけど酷くはないよ。」
「念のため、頓服として出しておきますので無理せず痛みがある時は服用して下さい。なるべく食後に飲んで頂けるといいです。」
「分かったよ。ありがとう。」
その場で薬の調合を始めるとジッと私の顔を見ている産屋敷様に粗相をしてはいけないと背筋がピンとした。しかし、そんな私の緊張感をほぐすかのように朗らかな声色が部屋に響いた。
「ほの花はやはり灯里さんに似てるね。目鼻立ちがそっくりだ。」
そう言うと産屋敷様は何かを思い出すように目を閉じた。そうだ…。あのことを聞かなければ。
折角宇髄さんに一念発起して自分の生い立ちを話して、産屋敷様なら何か知ってるかもという結論まで至ったのだから。
「…ありがとうございます。嬉しいです。あの…お聞きしたいことがあるのですが少しお時間よろしいですか?」
「ああ、どうぞ。」
「産屋敷様は神楽家のことについてどこまで知っていらっしゃるのでしょうか…?」
私の言葉を聞くと目を開けてこちらに顔を向けた。その顔は穏やかに微笑んでいて
まるで全てを知っているような…。そんな風にも見えた。
「君が知りたいことは陰陽師の一族の話かな。」
薬の粉末を秤に乗せたところで私の時は止まったように感じた。震える指先を手で握ると顔を上げて彼を見据える。
──やはり彼は知っていたのだ。