第3章 立ち振る舞いにご注意を
人生でこんなにもしんどい一日があっただろうか。
フラフラになりながら修行を終えると夜のお祝いに向けて台所で料理に勤しむ三人に加わり、お手伝いをする。
「天元様はふぐ刺しがお好きなんですよー!」
「ふぐさし??」
食べたことのない料理に首を傾げるが、知らない宇髄さんを知れるのは嬉しい。師匠の好みを把握しておくのも継子の役目だ。
そんな大層な物は作れないが、母がよく作ってくれた出汁巻き卵と肉じゃがを作ると豪華な料理の横に申し訳程度に置いておく。
まぁ、一番のお祝いは"夫婦の時間"なのだから問題ないはずだ。
そうこうしている内に約束の時間が近づいていたので、庭の掃除を終えたばかりの正宗達を連行して産屋敷邸へと急いだ。
「…ほの花様。本当にいいんですか?」
「あとで宇髄様に怒られても知らないですよ。」
「…帰らなかったら心配するんじゃないですか?」
「ちゃんと手紙置いてきたから大丈夫!」
そう。私はちゃんと書き置きをしてきたのだ。
了承こそ取っていないが、それを見れば状況把握はできるはずだ。
この分ならば明日師匠に「気の利く奴め」というお褒めの言葉を頂戴すること間違いなしだ。
大体、何故そこまで気にするのだろうか。
私は宇髄さんにお誕生日のお祝いをしたいだけで"怒られる"ようなことはしていないはずだ。
大きな荷物を抱え直すと産屋敷邸への道のりを小躍りしそうになりながら軽い足取りで向かう。
荷物の中には産屋敷様に症状に合わせて薬の調合をするためにたくさんの薬草、母の書き記した薬事書には産屋敷様の薬の記録も残っていたので事前に隈無く目を通しておいた。
幸いなことに師匠から言い渡された私の先週の任務は「寝ること」なので随分と読書が捗ったのだ。
やると決めたからには亡くなった母が恥じないように薬師をやり遂げようと心に決めていたから。