第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
(…しまった、笑い過ぎた。)
しかし、時すでに遅し。
壁際に追いやられるとそのまま壁に腕をついた宇髄さんに見下ろされて、蛇に睨まれた蛙状態。
まさかこのまま此処でスるとか言い出しやしないかヒヤヒヤとしているが、ちっとも何もしてこない。
それどころかこちらを真剣な目で見つめてくるので本気で怒らせてしまったのかと思い、別の意味でヒヤヒヤし出す。
「…え、と、わ、笑い過ぎました。ごめんなさい。」
こう言う時は先に謝った人が勝ちなのだ。
先手必勝で宇髄さんよりも早く謝ってみたが、望んでいたことではなかったようで全く反応してくれない。
困り果てて肩を竦ませると宇髄さんの指が顔を撫で、顎までなぞると顔を上げられる。
「…お前だけの責任だと思うなよ。」
「え…?」
「お前は俺の婚約者だろ。お前の責任は俺の責任でもある。だから一人で思い悩むことはねぇんだ。助けてくれって俺に縋り付けば良い。いずれ夫婦になるんだからそれくらい俺は受け止められる自信はある。」
一つ一つ紡がれる言葉は私が感じていた責任感を少しずつ溶かしていくように優しい内容。
彼が怒った理由も肯けるし、そんなことはちっとも気にしていない。
怒られるようなことをしたのだから反省こそすれどそれで宇髄さんを嫌いになるなんてことはない。
でも、きっと彼はずっと気にしてくれていたのだ。治療の件もあって、泣いてしまった私がこれ以上気に病まないようにと最大限配慮してくれているのが伝わってくる。
「…うん。ありがとう。…でも、今回はちょっと無鉄砲過ぎたね。叱ってくれてありがとう。心配かけちゃってごめんね。」
「アイツらに首を突っ込んだのはほの花だけじゃないってことは忘れんな。俺も同じように突っ込んだんだ。」
「うん。ありがとう、宇髄さん。」
「だけどなぁ…!マジで危ない目に自ら遭うことだけはやめてくれ。心臓止まるかと思ったんだからな。お前が思ってるより…俺はずっとお前のこと死ぬほど大切に思ってんだぞ。忘れんな。」
壁についた手をそのままに私の肩口に顔を埋める宇髄さんの表情は窺い知れない。
それでも彼の想いだけはひしひしと伝わってきて心臓がドクンと煩かった。