第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
どれくらいそこで泣いていたのだろうか。三十分くらいは宇髄さんに抱き締めてもらっていたと思う。
漸く泣き止んだ私は彼から離れるとお礼を言うために宇髄さんと視線を絡ませた。
「あの、ありがとう。もう大丈夫…!」
「俺が大丈夫じゃねぇんだけど、口付けしていい?ほの花不足で死にそう。」
「えー?!こ、此処で?!」
「此処って…俺ん家なんだからいいだろ?」
確かにそうだ。此処は宇髄さんの家で彼が家主なのだから気にする必要はないのだが、割と近くにあの六人の声が聞こえるこの場所での口づけは少し恥ずかしい…と思ってたのに、答える間もなくあっという間に唇が押し付けられた。
「ん、ッ…、」
触れるだけの口づけかと思いきや、いきなり舌を差し込んできた彼に"ほの花不足"と言うのは間違いではないようで、性急なそれに心臓が煩い。
くちゅ。ぐちゅ、っと唾液を絡ませる口づけを受け入れているのがみんなも使う洗面所だと言うことへの背徳感が付きまとう。
「ん、っ!う、うず、いさ…!ちょ、ま、待って…、あとで、へ、部屋で…。」
「…俺のこと、嫌いになってねぇよな…?」
突然至近距離でそんなことを言われてしまい、なぜそんなことをいきなり聞かれたのか分からず目をパチクリとさせて驚くしかない。
「…へ?な、なんで…?嫌いなわけ、ないよ…?なんでそんなこと聞くの…?」
「…さっき、怒鳴っちまったから…嫌われたかな…って。」
怒られた私よりもしょんぼりと悲しそうな顔をする宇髄さんの姿に驚きよりも笑いが込み上げて来た。
「…っ、あはっ…あははっ…!な、何で宇髄さんがそんなこと言うの?あー、駄目…っ、…!可愛いー…。」
そう、めちゃくちゃ可愛い。
捨てられた子犬みたいな顔をしている宇髄さんが可愛くて仕方ない私はジト目でこちらを見つめている彼を気にもせずにお腹を抱えて笑ってしまった。
「…随分と笑ってくれたなぁ?ほの花ちゃん?」
だから口角を上げて不敵に笑う宇髄さんに上から見下ろされると潔くいまの状況がまずいことに気付いた。