第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
「何だよ、怪我してっから折角優しくしてやったのによ。可愛くねぇな。」
「うるせぇな!おっさんに優しくされても嬉しかねぇし、気持ち悪ぃだろうが!」
「おーおー、そんなこと言っていいのか?此処は俺ん家だぞ?母ちゃんも隣にいるんだぞ?ご主人様と呼んで俺を崇め奉れ!」
「っっ、きったねぇぞ!意地汚ねぇ大人だな!」
宇髄さんが琥太郎くんの気を引いてくれていたおかげでとっくに縫合は終わっている。
患部周りを消毒して、止血剤を塗布して、包帯を巻き終わると二人の喧嘩が終わるのを待つ。
すると、そんな私に気づいてくれた宇髄さんが目を合わせて微笑んでくれた。
「…はいはい。終わったとよ。お疲れさん。」
「は…、え…?」
不思議そうに私の方を見るが、さっきまで患部を露出させていた自分の足がぐるぐると包帯で巻かれているのに気づき目を見開いた。
「宇髄さんが気を逸らしてくれてる間に縫合も処置も終わったよ。頑張ったね。お疲れ様でした。」
「…あ、アリガト、ゴザイマシタ…。」
「お母さんは怪我もないし、薬を飲めば大丈夫だからね。琥太郎くんもゆっくり休んで?」
私は薬箱を開けて、琥太郎くんの抗菌薬、痛み止めを取り出すと隣にいた雛鶴さんに渡す。
出血はそこまで多くなかったし、造血剤は要らないだろう。
「お母さんはまだ暫く起きない可能性があるので、後で点滴で薬を入れます。これはあの男の子の分なので、食事と一緒に出してもらえますか?」
「はい!分かりました。」
凝り固まった体をほぐすために立ち上がると背伸びをした。
ふと手を見ると手袋が無かったため、自分の手は血みどろだ。
「手を洗ってくるのであとお願いします。」と声をかけると洗面所に向かう。
先ほどまでの喧騒が嘘のように静かな廊下に緊張していた心が解き放たれて、全身の筋肉が弛緩していく。