第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
鬼気迫るようなほの花に強い酒と小さめの刃物を要求された俺が屋敷中から探し出して持っていくと、琥太郎の目が覚めたようで目が合った。
「…よかった、気がついたのか。ほら、言われたもの持ってきたぞ。」
「ありがとう…。でも、…うーん。…寝ていた方が良かったかもね…。今からやること考えると…。」
「…怖いこと言うなよ、ほの花。殺すなよ、俺のこと。」
「当たり前でしょ。大丈夫大丈夫。」
──ドクンドクン…
これは俺の心臓の音じゃねぇ。
ほの花だ。何度も聞いたことのあるそれは間違いようがない。
口では大丈夫と言っていてもそれは自分にも言い聞かせているように感じた。
見渡すとどう考えても十分と言える設備でもないし、器具も足りない。
持ってこいと言ってきたものも医療用ではない。
(…そりゃあ、そうだよな。いくら薬師でもこんなところでやるのは緊張するよな…。)
ほの花は蝶屋敷では外科処置もたまに行っているのも知っているし、応急処置なんて手際が良くて胡蝶も舌を巻いていた。
それなのにほの花の緊張感が伝わってきた俺は思わず、背中をトントンと撫でる。
後ろを振り向いた彼女は平気そうな顔をしているが口を噤んだまま硬い笑顔を向けてきた。
(…無理して笑ってんじゃねぇよ。)
だけど、知識もない俺は彼女の後ろ姿を見守ることしかできない。
「さ、始めるね。体が小さいから麻酔をたくさん打てなかったの。ちょっと痛いかもしれないけど頑張ってね…!」
「う、…うん。」
覚悟を決めた琥太郎を見て頷くと俺に向かって手を差し出してきた。
「宇髄さん、お酒此処にほんの少し入れてください。手を消毒するので。」
「ああ、わかった。」
差し出された手に少しだけ酒を入れると、それを揉み込み蒸発していくのを確認する。
「今度は今より多めにください。琥太郎くんの患部を消毒します。」
「了解。」
此処には医療者はほの花のみ。
要するにほの花の采配に全てがかかっている。
責任重大なこの状況下で緊張は最高潮の筈なのに先ほどより落ち着いていく心臓の音に彼女の強さを感じた。