第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
早朝でまだ人通りも少ないおかげで、一番近い橋までは10分程で到着したが、そこから見た光景に絶句した。
氾濫こそ免れているが、雨水で増水したせいで川幅は広がってしまっている。
草っ原があった河川敷も全て飲み込んでしまっていて、身体中の震えが止まらない。
寒いからじゃない。
恐怖で止まらない。
何で
何で
何で
夜中に気づいてあげられなかったの?!
自分勝手に助けたくせにこんな肝心な時に助けてあげられないならただのお節介じゃないか。
震える体をそのままに彼らの家に向かって再び走り出す。
(宇髄さん…、どうしよう。助けて…!)
任務中の彼にそんなこと言っても仕方ないのに願わざるを得なかった。
川沿いを走り、どんどんと近づいて来る彼らの家。
近づいてる筈なのに、目の前には増水した茶色の川の水しか見えない。
そこは河川敷の筈よね?
何で水なの…?!
嫌な予感しかしない。そんな予感なんて当たらなくて良いのに、たどり着いた先の光景に私は鼻がツンとした。
「…琥太郎くん…!…お母さん!!!」
そこにあるはずの家は忽然と姿を消しており、増水した水が化け物のように君臨しているのみ。
込み上げる涙を必死に耐えると下流を見つめた。
諦めるな…。
生きてる、絶対生きてる!
私が諦めてどうするの!
びしょ濡れの夜着をたくし上げて太もも付近で破り捨てると再び川沿いを走っていく。
流されているかもしれない。
声は聞こえないか耳を凝らしながら極力音を立てないように走る。
「…琥太郎くん…!お母さん…!どこ…?」
増水した川はゴォーッという音を立てながら荒れ狂っている。普段は静かな川だと言うのにあまりの変貌ぶりに苛つきが止まらない。
天災は仕方ない…。
しかし、昨日の時点で分かっていたのだから家に連れてきてあげれば良かった。
今更どうしようもないことを考えながら二人を探していると聴き覚えのある声が聴こえてきた。
「…琥太郎ーーッ!!」
その声は間違いなくお母さんの声だ。
声のする方を注視すると、川沿いギリギリに立っているお母さんが泣き叫んでいるのが見えた。