第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
思ったよりも…喜んでくれているのか宇髄さんは抱き締めたまま離してくれない。
急がなくて良いのだろうか?
虹丸くんに怒られるのでは?
受け取ってくれたのはとても嬉しいが、今は警護に行く時間のことのが気になって仕方ない。
「あの、宇髄さん…?行かなくて大丈夫?」
「…行くけど、離れたくねぇんだもん。」
"離れたくない"というのは嬉しいし、私もこのままずっと抱き締めていてほしいのは山々だが……。
私の視界に入ってきた黒い物体に冷や汗が流れ出る。
あの
早く
しないと……
「音柱ァァァッッ!!早ク任務行ケェェェッッ!!」
「………うっせぇな!!わぁーってるわ!!あー、くそ。…派手に抱きてぇが、今日のところはこの弁当で我慢する。ありがとな。」
「音柱ァァァッッ!!職務放棄ーーーーッッ!!」
「だぁぁーーーっ!今から行くだろうがぁああっ!!」
虹丸くんに急かされて慌てて私から離れていくが、何か思い立ったようにこちらを見ると、抱き寄せられて触れるだけの口づけをしてくれた。
「…マジで嬉しかった。ありがとな。ちゃんと夜寝ろよ。明日の明け方から天気が悪そうだから明日行くなら気をつけて行けよ。」
「う、うん!分かった。いってらっしゃい!」
今度こそ頭を撫でてくれると、一瞬で見えなくなるほど遠くに行ってしまった彼を見送った。
宇髄さんの言う通り、変な雲が流れてきたかと思うと風も出てきた。
柱の任務は天気がどうとか関係ないだろうし、仕方ないよね。
嵐の時とかは帰ってくるのが遅くなったりするだろうし、そればかりは天災なのだから仕方ない。
それにしてもまさかお弁当くらいであんなに喜んでくれるとは思わなくて本当に驚いたが、嬉しかった。
こんなことならばもっと早くに色々作ってみれば良かった。
彼の優しさに甘えすぎて怠慢だったのは否めない。
照れたような顔も可愛かったし、宇髄さんの初めて見る表情を見られるのも嬉しい。
空模様は真っ黒な雲に覆われていると言うのに私の心は晴れ渡るように澄み切っていた。