第19章 まだ見ぬ先も君といたい。【其の弍】※
「さ、琥太郎くん!ごはん作ったからお母さんと食べてね!私たちは帰るから。」
そう言って目の前で琥太郎の手を握るほの花に目を見開いた。
いや、子どもだ。分かってる。
だが、そいつはお前に惚れてんだから容易く触んな…と言いたいが、どうせこの女にそんな男心が分かるはずもない。
超が付くほどの鈍チン天然爆裂女なのだから。
だとしても、やはり自分の女に好意を寄せる男と目の前で手繋ぎは腹が立つ。
俺はしれっとほの花の反対側に並ぶと腰を引き寄せた。
俺の影が出来たことで琥太郎が睨みつけてきやがったが、その睨みは俺の専売特許だ。
この場合、俺とほの花は恋仲なんだから邪魔者はお前なのだと分かりやがれ!と心の中で反芻する。
子ども相手に大人げないから…と何とか我慢しているが、相手が大人の男ならば………
いや、その場合我慢しないどころか胸ぐら掴み上げて凄むな、俺は。
そんな俺の揺れ動く可愛い男心に気づきもしないほの花が家の扉を開けると大急ぎで薬の箱を持って戻ってきた。
「じゃあ、琥太郎くん、お母さんまたきますね〜!」
「おっさん!次はぜってぇ勝つからな!」
「へーへー、頑張れよー。」
「こら、琥太郎!!すみませんでした。うちの子と遊んで下さってありがとうございました…!」
母親の言い放った言葉に呆気に取られてすぐに二の句を告げなかったが、「あ、遊んでねぇぇえっっ!!」と言おうとした俺の口を横から塞ぎやがったほの花に引き摺られるようにして家を後にすることになった。
大体、子どもは嫌いじゃないが、あんなクソ餓鬼の遊び相手なんて御免だ。
遊んだんじゃねぇ。アイツが真剣に俺に向かってきたから相手してやっただけのこと。そこに遊びの要素は無い。まぁ、そんなことあの母ちゃんに言ったところでわからんだろうが。
それにしても…もう誰もいないっつーのにほの花は俺の口を塞いだまま草っ原を抜けるまで引っ張るので本当は簡単に引き剥がすことなどできたが、彼女が近くに感じられるのが意外に良くてそのままにしてやった。
(…俺って派手に優しいな、マジで。)