第1章 はじまりは突然に
血溜まりの中、母の遺体と折り重なるように倒れる私を見つけてくれたのは共に全国を行脚していた3人の護衛だった。
彼らの家族もやはり殺されていたようで父がしたのかは分からないが自責の念で全身が震えた。
彼らを連れ出さなければ家族は無事だったのではないか。
彼らを連れ出さなければこの国はここまでの惨状にならなかったのではないか。
自分の我儘で歌い踊る楽しい毎日が嘘のような地獄の光景。
「…正宗、隆元、大進。謝っても謝りきれないけど、本当にごめんなさい。」
「何を仰いますか!ほの花様のせいではありません!」
「そうです。我々は貴女に付き添ったことを後悔などしていません。」
「まずは…弔いましょう。そうしてから…奥方様の言葉通り産屋敷邸に行きましょう。」
正宗、隆元、大進は年は8つほどしか変わらないが、既に妻を持ち家庭を築いていた。家には妻を待たせていたのだろう。父に仕えていた3人は当たり前のように私にもよく接してくれており、兄は4人もいたがこの3人も兄のような存在だった。
子どもの頃からの昔馴染みの3人は自分もつらく、悲しいはずなのに私に寄り添ってくれている。それが更に申し訳なさを募らせ、自分の心を叱咤激励した。
「…そうね。ありがとう。」
埋葬しようとしても母以外、ほとんど手足はバラバラで、地獄絵図だ。
込み上げてくる気持ち悪さを嘔吐しながら何とか埋葬した頃には目方がだいぶ減った気さえした。
母が最後に言っていた薬がある薬品庫は地下にある。
そこには数えきれないほどの薬草の数々。母は陰陽師としての能力はなかったが、その代わり薬師としての腕は確かで作った薬を産屋敷様にいつも届けていた。
私もよくここに来ては母に薬の調合を教えてもらったものだ。
父から与えられたのは"戦う力"。
母から与えられたのは"人を助ける力"。
何もかも失ったと思っていたがそこには家族から培った確かなモノがあった。