第1章 はじまりは突然に
「私、たち一族、が虎視眈々と…あの男を討つ準備をしていた…というのに…」
「お、お母様、もう喋らないで…!分かった…!私が倒すから…!」
母ははぁはぁ…と荒い呼吸をなんとかしながら言葉を紡ぐ。何を言っているのか分からなかった。私は5人兄妹の末っ子。
甘えん坊で好きなことをさせてもらい過ごしてきた。神楽家の今までの経緯など知らずに何の不自由もなくのほほんと生活してきた自分が急に恥ずかしくなった。
もちろん子どもの頃から自分の身を守れるだけの術は身につけてきた。だからこそ今…あの化け物を倒して此処にいる。
「…鬼は…あなた一人の手には…負えないわ。だから…産屋敷様のところへ…行くの。」
「わ、わかったから!行くから…!お願い、逝かないで…!」
鬼…?鬼って…何?
すっかり陽が暮れて暗くなったところに月明かりが照らす。美しかった母の肌は真っ白を通り越して透けて見えるようだった。
「…ごめん、ね。ほの花。あなたを…一人残して逝くことに…なるなんて…。」
涙が止まらなくて私の嗚咽だけがそこに響き渡る。それすら止めないと母の声が聞こえない。
「ほの花、なら大丈夫…。仲間、を見つけて…、鬼舞辻無惨を討って。それが私たちの弔いになるわ。」
──やめて。もう何も言わないで1秒でもいいから永く生きて…!
「貴女の花嫁姿、見たかった…わ。素敵な殿方を見つけて、幸せに…なって、ね。」
──今そんなこと考えられないよ。
「そうしたらまた家族ができる。だけど…貴女は一人じゃない、わ。その五芒星の中に、わたしたち、は生き続けてる…」
氷のように冷たい手が握りしめていた父の五芒星の首飾りに触れた。
その顔はとても穏やかで微笑んでいるようにみえた。
「そろそろ…宗一郎様に会いた、く…なってきちゃった…。ほの花…愛、してる…わ。」
母はそのまま動かなくなった。
私は見殺しにしたのだろうか。そう考えてしまうと胃から込み上げるものを堪えきれず私はその場で吐いた。